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武蔵丘短大准教授  高橋 勇一(東京都板橋区) 




【略歴】前橋市出身。前橋高、東京大教育学部卒、同大大学院農学生命科学研究科修了。農学博士。アジア緑色文化国際交流促進会副会長として自然再生に取り組む。




国際生物多様性年



◎「生命の共生」を未来へ




 今年2010年は、国連が定める「国際生物多様性年」である。わが国では、3月16日に「生物多様性国家戦略2010」が閣議決定された。この戦略は、「第三次生物多様性国家戦略」(07年)を継承しつつ、10月に愛知県名古屋市で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に向けた取り組みを視野に、内容の充実を図ったものとなっている。ポイントは、(1)中長期目標(50年)と短期目標(20年)の設定(2)国際的な取り組みの推進(3)国内施策の充実・強化という3点である。

 「生物多様性」という用語は、少し難しいといった印象があるのは事実だ。今年中にこの言葉を市民の半数以上に普及するという目標もあるが、認識の広まり状況はいま一歩のようだ。生物多様性は、「様々(さまざま)な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在すること」(生物多様性基本法)と定義されている。一般には、生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性という3つのレベルの多様性がある。これは、現在における多様な生命の存在だけではなく、長い生命の歴史において受け継がれてきた結果として、生態系のバランスや生物の多様性が維持されているという概念を含む。

 さて、国際生物多様性年の目的は、(1)生物の多様性の保全(2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用(3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分を達成することである。また、「生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という「10年目標」を達成するための認識を高めることである。スローガンは、「生物多様性、それはいのち」「生物多様性、それは私たちの暮らし」。私たちの暮らしに必要な米・野菜・魚や肉、家の木材などは、田畑・森林・海などから農林水産業を通じてもたらされる。身に着けている衣服は、綿や麻などの植物繊維、絹や羊毛などの動物繊維を加工したものである。つまり、私たちの生命と暮らしを支える基盤は、さまざまな自然や動植物であり、生物の多様性が健全に維持されて初めてさまざまな生態系サービスを受けられるのである。

 特に、5月22日は「国際生物多様性の日」と定められている。さまざまなイベントが推奨されているが、アジア緑色文化国際交流促進会(会長・和愛軍博士)では、中国雲南省麗江市において日中韓の生態学会やKNCF共同による国際フォーラムを企画している。COP10の成功に向けて、生物多様性の恵みについて考え、生命の共生や自然との調和社会の創造に寄与できれば幸いである。そして、「修身斉家治国平天下」のごとく、個人・家庭・地域からグローバル社会に至るまで、持続可能な未来への発展を心から願う。







(上毛新聞 2010年4月8日掲載)