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実践女子大教授  大久保 洋子(東京都江戸川区) 




【略歴】富岡市出身。実践女子大、同大学院卒業。修士。管理栄養士。都立高校、文教大短大部、目白大短大部を経て実践女子大教授。学部長。専門は調理学、食文化研究。



不便さの利点



◎子供に工夫する能力を



 3、4月は卒業と入学で大忙しとなります。そして新しい節目の季節はなんと早く巡ってくることでしょう。今年の桜は3分咲きになったころ、春の花冷えといわれる寒さに逆戻りしてしまいました。早く暖かくなる日が待たれます。キャンパスにはかなり年数を経た大きな桜の木が、毎年この季節にそれは見事に咲いて楽しませてくれます。富岡の城山のお花見がなつかしく思い出されますが、変わらないのでしょうか。

 桜ふぶきのあとは八重桜がたわわにつぼみをつけると、助手たちがつんで塩漬けにし、学園祭に実践 まんじゅう饅頭を作ります。春の収穫を秋の営みにつなげるという作業はすばらしいことと思います(最近はなんでも手早く楽に出来ることが多いので、きちんと長期計画をたてなければなしえないことを実行するのは貴重な経験です)。

 さて、キャンパスライフを楽しんで、社会に巣立つ学生たちにとっては、今年はかなり厳しい情勢のようです。どんなことが待ち受けていても、今までのいろいろな経験を糧に活躍していくことでしょう。

 昨今の大学生はいろいろな面で恵まれた環境にあるようですが、便利さになれているが故の不便さもあるようです。特に年配者のわれわれから見て、歯がゆく感じることが多々ありますが、その原因は多くが便利な環境に育った点にありそうです。便利であることは誰しもが欲することではありますが、不便さを感じて便利になった場合と、すでに便利になっているとそれは便利ではなく、普通のことであるわけです。そのため便利さに感謝することは考えもしないということになります。

 日本はとても便利で親切な社会だと思います。もう10年以上前ですので古い話になりますが、イギリスで列車の旅をした時です。構内、車内アナウンスがほとんどなく、目的駅まで気が抜けず大変な思いをしました。日本ではアナウンスが親切にされますので安心ですが、それでも時々失敗します。自分の行動に責任を持つには少し不便な方が脳を活性化するのにはよいかもしれません。親切だと思っていますが、実は親切ではなく、アナウンスや説明書など、なにか起きた時の防御策なのかもしれません。

 パソコンが普及してとても便利になりましたが、最近はめっきり字を書くことが苦手になってしまいました。この原稿もパソコンで締め切り間際に書きあげて(打ちあげて?)います。ますます手作りのものの価値が高まることでしょう。子供時代は大いに不便にして工夫する能力をつけることが大切だと思います。便利さの恩恵をこうむるのは、大人になってからがよいのではと思うこのごろです。






(上毛新聞 2010年4月1日掲載)