視点 オピニオン21
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NPO法人「キャリア俱楽部」ユースコーディネーター  中澤 由梨(前橋市粕川町) 




【略歴】前橋女子高、筑波大卒。メーカを経て、2007年からぐんま若者サポートステーションに勤務。群馬、埼玉でニートなどの若者の就労に携わる。



人間関係の摩擦



◎表現のマナー獲得して



 年明けから、各若者就労支援機関への相談数は増えている感がある。中でもコミュニケーションにまつわる若者の相談は多い。第一声にコミュニケーションが苦手なので働けない、職場でのコミュニケーションがうまく取れなくて仕事を辞めてしまった、と挙げる方は多くコミュニケーションの摩擦が就労に大きくかかわっているように思う。

 一概に、コミュニケーションが苦手、と言われても、抽象的なのでどういうことなのかわからず、たいてい詳しく聞いてみる。よくよく聞いてみると、「あいさつをしても迷惑だろうからしていない」「相手が忙しそうなので何も言わないで帰っている」「また怒られるのではないかと思い目を合わせない」など、コミュニケーションと言うより、むしろ、実は、「マナー」という視点で話した方が近い問題なのではないかということも多い。このように、自分は悪気なく相手を気にしすぎるばかりに取っている態度が、人間関係で摩擦を起こしてしまうことも多いのではないかと感じている。

 例えば「あいさつ」「怒られた時」「断り方」について。この3つは、人間関係で摩擦が起きやすい代表例でありながら、実は教えてもらう機会があまりない。あいさつでは、あいさつとは返ってくるからするものではなく誰にでもするものであり、迷惑かと思ってあいさつをしないでいると、周囲から態度の悪い奴に見えてしまう、ということに気づかなかったりする。また、怒られたときについては、自分のことが嫌いで怒られているわけではないことを理解していないがために、必要以上にいらついたり落ち込んだりすることもある。断り方で言えば、中には、断り方がわからないので断らずに我慢し続けて、これ以上耐えきれなくなって問題行動を起こしたりする若者もいる。断り方のマナーさえ知っていれば、相手に失礼な感じを与えずに断ることができるのだが、単に知らないがゆえに断れない。かといって、いつまでも何でも我慢ができるというものではない。この3つの例のように、相手からの見え方を意識した考え方や言い回しを知らないばかり、摩擦を増やしていることも少なくない。

 表現のマナーを獲得するためには、本で読むだけでは難しく、周囲の人が実際に使っている表現を耳で聞いて、表現を手渡しで教えてもらって初めて使えるようになるものである。今後社会に出ていく世代の方々はメール文化の中で育っていることもあり、さらに表現のマナーを獲得する機会が減っているのかもしれない。人との関係をはぐくむコミュニケーションマナーをできる限り若者に示すのも、大切な大人の役割であろう。







(上毛新聞 2010年3月30日掲載)