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尾瀬保護財団研究員  橋本 幸彦(前橋市上小出町) 




【略歴】大阪大基礎工学部卒。東京大大学院農学生命科学研究科修了。元自然環境研究センター職員。農学博士。尾瀬保護財団でツキノワグマの保護管理対策に取り組む。




尾瀬の自然から学ぶ



◎無限の可能性育む機会




 先日、保育園で5~6歳児約20人に、尾瀬とツキノワグマについてお話しする機会をいただきました。子供たちの気持ちが離れないようにと、パワーポイントを使いクマの写真や動画、尾瀬の美しい花や風景を見せていきました。

 その一つ、至仏山を背景にミズバショウが満開になっている写真を見せ、聞きました。

 「この白いの何か知ってる?」「スカンクキャベツ!」。子供たちが一斉にこう答えたので一瞬次に言う言葉を忘れてしまいました。これはミズバショウの英語名です。北米に生育する近縁種は臭いのでこの名前がついたのだそうです。そんなこと、普通は大人でも知りません。なんでこの英語名が出てきたのだろう。あとで保育士さんに聞いたところ、スカンクキャベツは「エルマーとりゅう」という童話に出てくる、竜の好物だとのこと。さらに、それがどんなものなのか、前橋市の嶺公園に見に行ったそうです。尾瀬ではクマが夏にたくさん食べているとお話ししました。

 読み聞かせで聞いた話で想像を広げ、実物を見て、さらに本当にそれを食べる動物の話を聞けたとのこと。保育士さんたちは今回の話が子供たちのもっている興味の無限の可能性を広げてあげるきっかけになればとおっしゃっていました。子供の心の育成に少しでも貢献できたことをうれしく思いました。

 この子たちは4月から小学生になります。群馬県では義務教育期間中に一度は尾瀬に足を運ぶ、尾瀬学校という事業を推進しています。ただの遠足ではなく、事前に尾瀬の自然や環境保護について学び、さらに現地では生徒8人につき1人のガイドをつけるのです。尾瀬は原生的な自然が多く残されているというだけでなく、「自然保護の原点」としても有名です。この事業は子供たちが自然やその保護について深く学ぶいい機会になっていると思います。

 また、尾瀬高校には全国的にも珍しい自然環境科という学科があります。科学的なアプローチで近隣の自然に目を向け、疑問や課題に取り組んでいます。優れた研究も多く、何度もコンテストで受賞しています。科学的なアプローチだけがいいわけではありませんが、一つのものの見方を養ういい機会だと思います。

 このように群馬県では幼いころから高校まで自然に深くふれあうことができる環境があります。そして尾瀬はその非常に大事な舞台となっているのです。

 5年前に群馬に引っ越してきたとき「子どもを育てるなら群馬県」というキャッチフレーズを聞きました。近くに豊かな自然があるという意味かと思いましたが、実はそれだけでなく、さらに興味を はぐく育める可能性があるのです。







(上毛新聞 2010年3月27日掲載)