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◎情緒的に過ぎる反対論 前回(1月24日付)に続き裁判員裁判において冤罪(えんざい)を防止するために、取り調べの可視化つまり取り調べの全過程を録画する制度の導入が必要不可欠であることを述べたい。 世界の主要な民主主義国家は、取り調べの全過程の録画・録音か取り調べに際して弁護人の立ち会いを認めるなど取り調べの密室化を許さず第三者による監視機能を確保する制度を設けている。東アジアでは韓国、台湾、香港、モンゴルなどで既にこの制度が創設され運用されているのに、日本では弁護人の立ち会いも取り調べ過程すべての録画も、いずれも認められていない。 ベイカー事件という事件があった。2002年、日韓共催サッカー・ワールドカップの観戦目的で来日した英国人ニック・ベイカー氏が麻薬密輸容疑で逮捕起訴された事件である。英国では取り調べの可視化も弁護人の立ち会いも認められている。この事件では取り調べの際の通訳の正確性が公判で大問題となった。可視化制度がないため取り調べ時の通訳が正確になされたか否かの検証が全く不能だったのである。そして、ベイカー氏が懲役14年の判決を受けるや、英国では日本の刑事司法手続きが反人道的であるとの厳しい批判キャンペーンがわきおこり、英国政府が裁判の公正を求める文書を裁判所に提出する事態にまで発展したのであった。 また、1998年には国際人権規約委員会が、2007年には国連拷問禁止委員会が、取り調べを規制する適切な制度が存在しない日本の現状を問題視し、取り調べの録画・録音を勧告している。かように第三者の監視機能を効かせない日本の取り調べの方法は国際標準からみて特異であり、外国や国際機関から強く批判されている。他国は他国、日本は日本固有の制度を墨守すればよいとの硬直的な姿勢はグローバル化の進展著しいなかで通用しないのではないか。 さて、可視化反対論者は、取り調べが全て録画されると被疑者は真実を話さない、被疑者と信頼関係を築き反省悔悟させることの妨げとなる、などの理由をあげて反対する。しかし、いずれも客観的に検証できない情緒的な理由であり、多くの冤罪事件は、密室では真実ではなく虚偽が語られることを示している。また取調官と被疑者の立場は当然ながら対等ではない。取調官が信頼関係を築いて自白を得たと考えたとしても実際は孤立無援の密室の中で取調官の権力に屈服、迎合して虚偽の自白をしてしまうことが多いのである。 足利事件の再審公判で検察官の菅家利和さんに対する当時の取り調べ状況を録音したテープが再生された。取調官が弁解に一切聞く耳を持たない状況下では容易に虚偽自白が誘発されることがうかがい知れる。 (上毛新聞 2010年3月21日掲載) |