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◎失われる生態系と文化 西表島(いりおもてじま)は、沖縄県八重山郡竹富町に属する島であり、八重山諸島最大の島です。この西表島の浦内川河口域は日本一生物多様性の高い地域であるとされています。日本一高い富士山に一度は登ろうと思うなら、同じように西表島の浦内川を一度は訪れるべきだと思います。とはいえ、なかなかそこまで足を運ぶことはできません。 しかし、群馬ではこの西表島の生物多様性を実際に間近に見ることができる場所があります。「ぐんま昆虫の森」の生態温室に行けば、そこには西表島の環境が再現されています。建設中には、箱物行政を批判する政治家からは無用の長物のように扱われた施設ですが、このような施設を県内にもっているということは、素晴らしいことだと思います。中身を考えず、箱物としてしかとらえることのできない大人たちはほっておいて、群馬に暮らす子供であれば、一度は説明をしっかり聞きながら見学するに値する施設だと思います。さらに、かやぶき民家など里山の重要性をしっかりととらえている点も重要です。里山は、人がかかわりを持ち続けることでその生態系が維持される空間です。昔の日本には、至る所に里山があり、そこには豊かな生態系が存在していました。この豊かさこそが、私たちを本当に豊かにしてくれるものだったのです。 里山では、野生動物が増えすぎないように、また減りすぎないように、狩猟者が適当な間引きをしていました。しかし、最近ではこのような狩猟者は高齢化し、激減しています。また、山を管理する人もいなくなりました。このような里山の危機は、単に里山の生態系が失われるだけではなく、そこにあった文化も失われてしまいます。さらに、里山周辺で盛んなはずの農業や林業にも影響します。たとえば、シカが増えすぎると山の下草や低木が失われて、山の保水力が低下します。ちょっとした雨が降るだけで、土壌が流出したり、洪水を起こしたりすることになります。山が死ねば、川が死にます。川が死ねば、海が死にます。里山を守ることは、山を、川を、海を、地球を守ることなのです。 こう考えると、第1次産業である農林水産業は、豊かな自然がなければ成り立たないことが見えてきます。「水と安全はタダ」と思われていた日本ですが、自然が悲鳴をあげ、助けを求めています。したがって、自然を守ることは重要な仕事になります。これまでに存在しなかった仕事です。私は、これを第0次産業と呼んでいます。何が大切なのかを理解すれば、どうしたら良いかが見えてきます。温暖化も決して遠くで起こっている出来事ではありません。すべて私たちの間近で起こっている出来事なのです。 (上毛新聞 2010年3月17日掲載) |