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電通 メディア・プランナー  一文字 守(東京都品川区) 



【略歴】高崎高卒。慶応大大学院修了。電通勤務。マーケティング、営業部門を経て、現在はメディア・プランナーとしてさまざまな広告主の広告計画立案に携わっている。


日本の広告費


◎新しい手法の開発を




 2月20日に毎年恒例の『日本の広告費』が電通から発表になった。ニュースや記事で取り上げられたので、目にした方も多かったであろう。

 今回の大きなトピックは以下の2点である。第一に、昨年の広告費は5兆9322億円と前年比で11・5%減少したこと。第二に、媒体別の広告費ではインターネットが新聞を抜き、テレビに次ぐ2番手のメディアに躍り出たことである。この2点について、私なりの意見を述べたいと思う。

 広告費全体では、やはり一昨年のリーマン・ショックに端を発する世界不況の影響が大きい。広告費は不況になると削られやすい経費3Kのうちの一つと言われる(広告費、交際費、交通費)。会計処理上は「費用」に計上されるため、そのような企業姿勢は理解しやすいが、広告には「投資」的価値があるのも周知の事実である。広告効果には、広告接触直後の購買を促す短期的なものだけでなく、そのブランド、商品に対する好意やイメージの醸成を図り、「次回買うならこの商品」と生活者の心に残存する長期的なものもあるからだ。実際、過去の不況期において広告費を増額した企業の、不況後の回復期の業績は、広告費を減らした企業のそれよりも格段に良くなったというリポートも発表されている。

 広告会社の社員としては、広告主にこの投資的価値を認めてもらい、積極的に広告活動を仕掛けていきたいと思っている。なにより広告が元気だと世の中全体が元気に見える気がするのは私だけではないはずだ。

 2点目のインターネットの広告費については、パソコンや携帯電話の普及状況を見れば当然のことのように思える。ただし、勘違いしてはいけないのは、これによって他のメディアの力がなくなってしまったのではないということだ。それぞれのメディアにはそれぞれの特性があり、またメディアとしての使命を負っている。テレビやラジオは速報性やエンターテインメント性を生かした番組作りを行っているし、新聞は詳報性に優れている。雑誌は報道領域にとどまらず、ライフスタイルの提案まで行っている。それらの特性はそれぞれのメディア固有のものである。

 インターネットはメディアでもあるが、その根幹はインフラである。現在各メディアにおいて、インフラとしてのインターネットを活用しようとする動きが起こりつつある。いわば既存メディアとインターネットの相乗りである。それらが具現化したとき、そこには新しいメディア特性、メディア価値が生まれるだろう。それを生かした新しい広告手法の開発が広告会社の使命でもある。皆さんには新しいコミュニケーション手法を楽しみにしていていただきたい。






(上毛新聞 2010年3月16日掲載)