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◎欧米人並みなら不足 国連経済社会局は、40年後の2050年には世界の人口が90億人を超えると予測している。しかし、この予測は随分と気楽な予測と思う。現在、地球に68億人が住んでいるということは、68億人分の食料が生産されているということである。 国連の予測は、まず、90億人分の食料が生産されることが前提である。また、現在の1人当たりの世界の平均消費量(平均的な食生活)をもとに計算している。 穀物について試算してみよう。08年の世界の穀物生産量は約25億トンであった。これを33億トンに増やす必要がある。世界の収穫面積は35年前から増えず、約7億ヘクタールである。従って単位面積当たりの収穫量を増やすしかない。となると、年に0・7%ずつ収穫量を増やす必要がある。これは技術的には可能であろう。 しかし、多くの人が気づいているように、もしも、68億の人が欧米人並みの食生活を望んだら、現在でも食料は全く不足するのである。ちなみに、08年の国民1人当たり・1日当たりの供給エネルギーは日本人で2739カロリー、米国人は3854カロリーである。 この差はそれほど大きくないように見える。しかし、日米では食生活の中身が異なり、欧米人は肉類をたくさん摂取している。牛肉1キロを生産するのに必要な穀物は11キロ、豚肉は7キロ、鶏肉は4キロである。つまり、欧米人並みの食生活はより多くの穀物が必要であり、その分広い農地が必要なのである。 谷野陽(『人にはどれほど土地がいるか』農林統計協会、1997年)によれば、1人を養うのに必要な耕地面積は、日本人については1400平方メートル、米国人並みの食生活だと4千平方メートルが必要である。4千平方メートルで90億人を養うには、36億ヘクタールが必要となる。世界の森林面積が約35億ヘクタールなので、世界中の森林を丸裸にしても不足する。 では、食生活の向上が進んでいる開発途上国の人々に、贅沢(ぜいたく)をしてはいけないと言えるだろうか。むしろ「今度は私たちが肉を食べる番です」という答えが返ってくるに違いない。これは化石燃料についても同じである。「今度は私たちが車に乗る番です」という答えが返ってくるだけだろう。 再び谷野によれば、明治末期の食生活だと600平方メートルの耕地面積で十分であった。筆者はそのころの食生活は経験していないが、戦後の貧しい食生活を少し知っている。昭和30年代になると、朝は麦飯に味噌(みそ)汁と納豆、昼は学校給食のパン、夜はうどんにコロッケ半分程度で、栄養的には十分に足りていた。でも、一度贅沢をすると簡単には昔に帰れない。 食料にしても、温暖化を引き起こしている化石燃料にしても、それを解決する手段をもたないまま時が流れている。 (上毛新聞 2010年3月13日掲載) |