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◎働く不安を支える 15年前、精神障害者の方の就労支援で苦い思い出がある。Aさんは30代の落ち着いた雰囲気の女性だった。久しぶりの就職を目指して、障害者職業センターへ相談にみえたのだった。相談の結果、求職活動を始める前の職業生活に慣れるための準備としてセンターへ8週間通所してもらうことになった。通所中のAさんは疲れた表情を見せることはあったが、仕事をこなし遅刻や欠席はなかった。 彼女は求職活動にあたり、「通院や服薬について会社側に承知しておいてほしい」との考えだった。当時は今ほど障害者の就労支援を進める機運は高くなく、精神障害者の方の就労についても企業の理解は得られにくい状況だった。そのような中で、数社の会社と面接の後、Aさんの希望に沿う仕事で実習が決まった。 しかし、3週間の実習の結果、彼女は体調を崩し就職を辞退した。実習の前半は問題を感じていなかった就業時間や通勤の負担が予想以上の疲労につながり、また同僚との関係になかなか慣れず、働き続けることへの不安が高まったのだった。私は、週1回職場を訪問していたが、彼女の疲労や不安に気付けなかった。 もし、Aさんの支援を今行うなら、私はハローワークが窓口の「精神障害者ステップアップ雇用」や障害者職業センターの「ジョブコーチ支援」の利用を彼女に勧めるだろう。前者を利用することで、短時間の就業から始められ、仕事や職場への慣れに応じて少しずつ就業時間を延ばすことができる。また、後者の利用により、ジョブコーチが職場を訪問し、仕事の心配や対人関係の不安、身体の疲れ具合などを細かく把握できる。そうすれば、「働き始めは誰もがきつい時期だから、もう少し頑張ってみよう」と励ましたり、「休憩時間にAさんが落ち着ける場所を用意していただけませんか」と会社にお願いすることもできると思うのだ。 ジョブコーチ支援のメリットは、障害者の方が職場で直面する仕事や対人関係等の問題の解決を、ご本人や会社の担当者の方の努力にのみ委ねるのではなく、ジョブコーチが具体的に関わるなかで実現することである。そして、問題解決の方法として、障害者の方が職場で求められる力を身につけるための支援と、会社が障害に対する理解や工夫等により障害者の働きやすい環境を実現するための支援という視点を持ちながら、両者に働きかけていけることだと思っている。 先日、群馬で最初に相談を受けた精神障害者の方から電話があった。ご本人は、ジョブコーチの支援を得ながら書店で週4日働いており、今後勤務時間を増やしていく予定である。これからも、障害のある方の、働き始めの疲労や不安を理解し、無理のない就業を支援していきたい。 (上毛新聞 2010年2月26日掲載) |