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古代米浦部農園取締役  浦部 真弓(藤岡市鮎川) 



【略歴】岐阜県生まれ。中央大卒業後、東京都に入庁。病気退職した後の1990年から藤岡市で有機農業を開始。2004年に法人化した。古代米、穀類を生産している。



今を生きるものの責務



◎食と農を見つめ直して




 不況のなか、安値競争が激化している。衣料品や家電はもちろんのこと、食の分野でもその傾向は著しい。

 衣料品や家電なら性能に違いがなければ安い方がいい、というのは無理もないが、食品があまりに安いというのはいかがなものか。

 農産物は工業製品のように都合良く労働賃金の低いところばかりで生産されるわけではない。再生産費が保障できないような価格で流通しているとしたら、おかしいと思うべき。

 食というのは言うまでもなくいのちの基だ。安さに基準をおいては大事なことを見落としてしまう。

 牛海綿状脳症(BSE)問題や中国製ギョーザ中毒事件、事故米事件などは、食といのちがつながっていることを忘れた結果ではなかったか。

 安売り競争のツケは生産者にまわってくる。再生産費が確保できないから農業に後継者が育たない。

 そのうえ一貫性のない農政に翻弄(ほんろう)され、結果として食料自給率40%、担い手の高齢化、後継者不足、耕作放棄地の増大という今日の危機的状況を生み出した。

 政権交代で農政の猫の目がまたもやぐるりと動いて生産現場は大混乱だ。

 一方で、農業施策の枠外におかれ助成金行政とは無縁であったが故に消費者に支えられてきたのが有機農業だ。今年はJAS法制定後10年の節目の年だが、国産有機農産物の生産は1・4倍の伸びにとどまっている。韓国では42倍、中国に至っては575倍もの飛躍的な拡大を示している違いは、農業政策の違いであると同時に、日本の流通業界が国内農業を育てるという視点に立っていないことの表れでもあると思う。輸入オーガニックの伸びが4倍以上であるのもその表れであろう。

 これまで日本経済をけん引してきた自動車や半導体、IT関連などの産業構造が危うくなっている一方で、国際市場では穀物相場は上昇しており、今後とも下がる見込みはないという。

 安易に食料が調達できる時代はいつまでも続かない。産業構造が崩れ去ったときにやってくるのが飢餓というのでは、子どもたちに申し訳がない。

 そんな危機感から昨年、多野藤岡有機農業推進協議会、JAたのふじなどが中心となって、「食と農をつなぐいのちの講演会」が藤岡市で開かれた。生産者と消費者が一緒になって農業の再生や食生活のあり方を考える場づくりが目的で、第2回の今年は3月22日に予定している。

 今を生きるものの責務として、食と農を一緒に見つめ直してみませんか。








(上毛新聞 2010年2月24日掲載)