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◎ワンフレーズの軽さ 政治の世界はもちろん、どんな組織でも人を動かすには分かりやすい言葉で発信することが大切だ。それもただ言いっぱなしの単なるスローガンではなくて、聞き手がその中身をすぐにでも理解し、イメージがどんどん膨らみ、具体的な行動へと向かっていく言葉が求められている。そして、心の奥深くに染み渡るようにじっくりと考えさせる言葉が大事だ。 分かりやすい言葉で問いかけるのも良いが、敵をつくる言葉は聞いていて後味が悪い。敵としての焦点がはっきりするから人の気持ちは惹(ひ)きつけられていくが、事の本質を理解することなく一人歩きしがちである。「郵政民営化是か非か」で争った4年半前の選挙は、敵がハッキリしたから、有権者の心も一方へと流れて一党だけが考えられないくらいに圧勝した。去年の夏の選挙の「コンクリートから人へ」も分かりやすい、今度はまったく逆の結果をもたらした。それでも、熱気が冷め、時間がたつとあのフレーズはなんだったんだろうという気に誰もがなってくる。本質を理解することなく、まっとうな議論が消えていってしまったことがそうさせる。 それにしても、建設産業界を揶揄(やゆ)しながらひとくくりにする言葉は多い。代表する言葉が、誰が言い出したのか「ハコモノ」である。主に公共建築のことを指しているのだが、薄っぺらな言葉であることに違いはない。人が住み、人が使う建築に対して、建築家にとってはたまらない蔑称(べっしょう)である。確かに無駄とされる建築もあったことだろうが、「ハコモノ ハコモノ」と連呼されるたびに、すべての建築が「無駄なハコモノ」と了解され始めている。そのほかに思いつくものだけを挙げてみても、図面屋、建設業のことを土建屋、汚い・きつい・危険の3K産業などといくつも浮かんでくる。ものづくりの心が、たちどころにうせてしまうような言葉ばかりだ。 コンクリートの歴史は日本の近代化の過程と共に歩んできたと言っても言い過ぎではない。「コンクリートから人へ」も無駄な公共投資のことを言っているのだが、いつの間にか公共投資そのものが悪いとの論理にまで飛躍していってしまう。「ハコモノ」にいたっては、もう建築すべてを表す言葉になりだした。 政府の「事業仕分け」に対し、科学技術に関してはノーベル賞学者がそろって記者会見までするから見直し論が出てくるが、こと土木・建築技術の分野の応援団は数少ない。戦後の足りないものをつくる時代も過ぎ、全国各地での建設ラッシュの装飾過多のバブル建築も経験した。その次に日本文化が目指すかたちは、文化の醸成である。薄っぺらなキャッチコピーの繰り返しが続けば、文化のありようそのものも薄っぺらな文化から逃れられなくなる。 (上毛新聞 2010年2月4日掲載) |