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◎稜線光法で独創的表現 1979(昭和54)年の「近代日本美術のあゆみ展」(東京都美術館等主催)を機に、館林市出身の日本画家、藤牧義夫の美術史的位置は定まったとされているようです。 しかし、彼の名の周知度は依然として、美術の専門家あるいは積極的は美術愛好家などの方々に限られているのが現状で、地元群馬県下でも「藤牧…サァー?」ということもしばしばです。 私は藤牧義夫の知名度が低すぎると日ごろから痛感している者の一人として、機会ある度に彼のことを書き、名の広まるのを期待しています。個人的レベルの活動で力は微々たるものですが、上毛新聞「シャトル」の紙面をお借りして、藤牧の事跡等を連載してきました。また、私の「藤牧義夫論」として『赤陽物語(せきようものがたり)』を上梓(じょうし)しています。彼の知名度がわずかでも上がればうれしいことです。 画家を知るにはその「絵」を見るのが一番です。残念ながら本欄においては文言のみの紹介になりますが、まずは藤牧の版画の特徴に注目してみましょう。彼の版画は「面」の効果を強調する作品と「光」の表現法を工夫した作品に大別できるようです。 藤牧は版画における「面」の働きと効果に強い興味を抱き、日本の伝統的「浮世絵」と「ドイツ表現派」の作風から面の効果を研究しました。面の安定感や力強さの効果に関心を持ったのでしょう。厚塗りをイメージするような作品が見られます。≪白ひげ橋≫≪鉄の橋≫≪鉄≫≪朝・自画像≫≪墓≫の連作等があります。 そして、何と言っても藤牧の版画の独創性は「光」の表現たる「稜線光法(りょうせんこうほう)」を創案したことにあります。自分だけの「光」に強くこだわった藤牧ですが、稜線光法では、作品中の造形物の輪郭や造形物同士の境界などをキラキラとまぶしく光らせるために、線を寄せ集めるように彫り、その線に光を与えるのです。つまり、光を線で表したのです。「線の藤牧」、「三角刀の藤牧」とも称される彼ですが、三角刀での彫り跡が鋭いことに注目しての創案です。例えば、第14回「帝展」入選作≪給油所≫に描かれた照明灯の外郭に、その特徴がよく現れていて、三角刀で彫った線の集まりが夜空に向かって発光しています。また≪赤陽≫では、夕日や建物から発する電灯、あるいは自動車のヘッドライト等々の光が、林立する都会のビル街に乱反射する様子を三角刀の線を大量に交錯させ光にしています。 浮世絵では光を直接表現しません。色彩の明暗による間接的な表現です。明治初期の小林清親や井上安治の光表現「光線画」は面に色彩を与えました。藤牧の稜線光法は三角刀による「線の集合」に色彩を与えるという、これまでになかった彼の独創的光表現です。 (上毛新聞 2010年2月3日掲載) |