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◎状況を正確迅速に判断 今回と次回は、裁判員裁判で冤罪(えんざい)を防止するために、取り調べの可視化つまり取り調べの全過程を録画する制度の導入が必要不可欠であることを述べたい。 昨年12月5日、群馬弁護士会は「冤罪と裁判員制度を考える市民集会」を開催した。約100人が参加した集会では、布川事件の再審請求人、桜井昌司さんの体験談を伺った。1967年に茨城県で発生した強盗殺人事件だ。桜井さんと杉山卓男さんの2人が犯人として逮捕起訴された。物証はなく、自白調書とあいまいな目撃証言のみで有罪、無期懲役とされた。桜井さんたちは「自白は警察に強要された」と最高裁まで無罪を争ったが認められなかった。2人は29年間服役し、服役中、仮釈放後と再審を請求していた事件である。 桜井さんの体験談は、ユーモアあふれるものであったが、密室での取り調べの苛烈(かれつ)さや人が虚偽自白へ陥っていく怖さをまざまざと知ることができた。集会後の12月15日、最高裁は検察側の特別抗告を棄却して桜井さん、杉山さんの再審開始が確定した。 密室での強引な取り調べがうその自白を誘発して冤罪や誤判の原因となっていることは、つとに指摘されてきた。最近では富山県氷見市の男性が強姦(ごうかん)事件の取り調べで虚偽自白をさせられた結果、有罪判決を受けて服役し、後に真犯人が発見されたことで再審無罪判決を受けた事件(氷見事件)、足利市の男性が幼女誘拐殺人事件でDNA鑑定に基づいて自白を強要され公判で争ったものの認められず無期懲役が確定したが、鑑定の誤りが判明して再審開始決定が出た事件(足利事件)など、次々と深刻な冤罪が明らかになっている。 裁判員裁判においても、密室内でノーチェックでの取り調べを前提とする現在の制度では、氷見事件、足利事件、布川事件のような冤罪事件が発生しかねない。 自白の強要が行われたか否かは、被告人と取調官の両方を証人尋問して、どちらの話が本当かを判断するしか方法がない。そのため延々と関係証人の尋問が続けられ裁判は長期化する。 裁判官だけで長期間審理しても誤判を重ねるような難題を、裁判員がわずか数日の審理で判断できるはずがない。また、万が一にも裁判員を冤罪にかかわらせるべきではない。自身が判断を下した事件が後に冤罪であったと判明した時の裁判員経験者の精神的衝撃は甚大であり、市民を冤罪に加担させた司法に対する信頼は地に堕(お)ちよう。 もし取り調べ状況が全て録画されれば、裁判官・裁判員は客観的な証拠によって取り調べ状況を正確迅速に判断できる。また裁判で取り調べ状況が争われること自体が激減するだろう。取り調べ可視化の必要性は、裁判員裁判の開始により決定的になったといえよう。 (上毛新聞 2010年1月24日掲載) |