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関東森林管理局赤谷森林環境保全ふれあいセンター所長 
                               田中 直哉
(沼田市柳町)  



【略歴】大阪府堺市出身。東京農工大農学部環境保護学科卒。農林水産省林野庁に入り、大臣官房企画室、農村振興局などを経て、2008年4月から現職。



「赤谷の森」の森づくり



多様な価値観反映して




 現在、日本の森林面積は約2500万ヘクタール、そのうちスギ・ヒノキ等の人工林が約1000万ヘクタール、国土面積の約3割を占めています。これは、戦中、終戦直後の大規模な森林伐採で荒廃した国土を緑化し、高度経済成長期の木材需要に応えるため、成長の速く早期に森林を造成でき、建築用材等に適し、経済的価値が高いスギ・ヒノキ等を中心とした針葉樹が積極的に植林された結果です。

 昔はどうかというと、安藤広重の東海道五十三次の浮世絵には、点在する松ばかりが山に描かれているように、日本の歴史の長い間、昭和30年代までは、森は今のようなうっそうとした姿ではなく、薪炭林や茅(かや)場として活用されることにも重要な役割を持っていました。人間生活に近い里山では、「森」というより、「林」や「野」の山が多かったようです。

 最近では、生物多様性の保全や美しい景観の維持、地球温暖化防止のための二酸化炭素固定機能など森の持つ幅広い機能に関心が高まっている一方、先人が苦労して植えたスギ・ヒノキが大きく育っていますが、木材価格の低迷により利用されず、間伐が行われていない人工林も少なくないところです。

 このように、森の姿は時代ごとの人間生活の営み、経済活動などの価値観を反映した鏡と言えます。

 このような中、みなかみ町北部の国有林・「赤谷の森」では、地域の方々と日本自然保護協会、関東森林管理局が協働して、生物多様性の復元と持続的な地域づくりを目標とした「赤谷プロジェクト」に取り組んでおり、森づくりについて、協働3者それぞれの価値観を反映していく仕組みを持っています。このため、現在、「赤谷の森」における今後の森林管理について、植生管理、猛禽類(もうきんるい)モニタリングなど、これまでの赤谷プロジェクトの調査研究結果や地域からの直接の声を反映していく取り組みを進めています。

 私も仕事柄、森があるところを全国転々と渡り歩いてきましたが、スギ・ヒノキの森を目にすることが多かったように思います。その一方で、紅葉や花木が美しい森、散策すると気持ちの良い森、子供が安全・気軽に遊べる森、動物が棲みやすい森など、そのための森づくりができないものかと常々感じておりました。赤谷プロジェクトの活動を通じて、従来にない森づくりができる絶好の機会と言えましょう。

 多様な価値観を反映したさまざまな発想や提案が実現されることにより、50年、100年たったとき、「赤谷の森」がどのような姿に変ぼうしていくか、非常に楽しみです。






(上毛新聞 2010年1月22日掲載)