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高崎経済大地域政策学部長  大河原 真美(高崎市栄町)  



【略歴】上智大外国語学部卒。豪シドニー大法言語学博士。2007年8月から高崎経済大地域政策学部長。裁判で使われる言葉を研究、著書もある。家事調停委員。



裁判員裁判傍聴席から



意義とその成果を実感




 昨年の12月8日から11日まで、県内初の裁判員裁判が前橋地裁であった。新聞各紙でも大々的に報道していたので、記憶に新しい方も多いのでないかと思う。4日間傍聴している時、ふと、自分が傍聴している裁判は法曹三者合同の模擬裁判員裁判ではないかと思ってしまうことがあった。初めての裁判員裁判は、見事なソフトランディングでのスタートとなった。

 2004年5月21日に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立してから、各地の地方裁判所では、全国共通の10件程度の刑事事件の題材を使って、模擬裁判員裁判を実施した。題材と言っても、実際にあった刑事事件を加工したもので、各題材には、裁判員裁判対象事件の「殺意の認定」や「正当防衛」等の異なったテーマがあった。

 題材が共通でも同一のシナリオを使っているわけでない。このため、当事者の検察官と弁護人はそれぞれの主張を練りに練り、真剣勝負であった。その結果、求刑や判決の内容が同じではなかった。検察官の主張がほぼ認められたものや、無罪判決が出るものもあった。

 この法曹三者合同の模擬裁判は、裁判員裁判の課題を検討するのが目的なので、裁判官役は地裁の裁判官、検察官役は地検の検察官、弁護人役は県弁護士会の弁護士という法曹界の現職が務めた。被告人役には、まさか本物の被告人に登場してもらうわけにはいかないので、裁判所の職員が務めたが、証人でも、鑑定証人には医師が出廷することもあった。それから、裁判員も20歳以上の県民が6名参加し、日数も丸3日使って、本番さながらの取り組みであった。

 模擬裁判員裁判は、06年から始められたが、回を重ねるにつれて、審理における検察官と弁護人の主張、評議における裁判官の議事運営、裁判員の発言回数や発言内容にもめざましい改善がみられ、それらは一つの連続体のように進化していった。私のように模擬裁判からずっと傍聴している者にとっては、県内初の12月の裁判員裁判は、7月に行われた最後の模擬裁判員裁判の延長のように思えたのである。法曹三者合同の模擬裁判員裁判の意義とその成果をあらためて実感した。

 裁判員裁判には制度そのものに対する反対意見も根強い。また、性犯罪を対象とすることの是非、裁判員に課せられた守秘義務等についての懸念もあり、一理ある。さらに、法曹界からのつてで集まった模擬裁判員とは異なる、実際に選任された裁判員の資質に対する不安もあった。しかし、第1号の裁判員裁判は、その不安を払ふっしょく拭してくれたように思う。今月下旬から始まる第2号と第3号についても期待したい。






(上毛新聞 2010年1月15日掲載)