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◎「現場力」を鍛えよう 私は、伊丹敬之一橋大学名誉教授の著書を愛読している。この正月も、『経営を見る眼』(東洋経済新報社)を読み返した。伊丹氏は、この著書で、「多くの人は他人と協働したいという気持ちを持っている。その協働の意欲を沸き立たせ、協働がしやすい状況づくり、条件づくりをするのがマネジメントの役割」「設備やカネという目に見える資源ではなく、技術やノウハウ、顧客の信頼、組織風土といった見えざる資産が企業の競争力の源泉となる」と指摘している。私は、これらの指摘が現場の力、いわゆる「現場力」という「見えざる資産」の重要性を説いたものと理解している。 ところで、最近、製造業ではアジア新興国などでの生産を拡大する動きがみられる。この一つの背景は、新興国を中心とする海外と国内の成長率格差の拡大である。また、国内の生産コストが相対的に高まっていくことを懸念する声が根強い。その理由として、非正規雇用の活用に対する風当たりの強さ、温室効果ガスの排出規制強化の動き、円高の進行等が指摘されている。当県の主力産業である自動車・同部品も例外ではない。このため、関連する事業を営む経営者の多くが不安を抱いている。 しかし先日、ある経営者から「海外では階級意識が強く、エリートである技術開発者と現場の工員のつながりが希薄。また、日本で教育された技術・技能を抱え込み、同僚と共有せず、転職していく」と伺った。冒頭に述べた「現場力」が弱いということだ。これでは生産性の改善、品質の向上は期待し難い。現場力が日本の持ち味だとすれば、わが国の企業の競争力の源泉は引き続き国内にあると言えよう。 現場力の重要性は製造業だけの話ではない。人々が働くすべての場に共通する。日本銀行前橋支店も例外ではない。銀行券の発行と円滑な流通、決済システムの運営、国庫金の受け払い、金融機関の経営状況の把握、金融経済動向調査等の業務を担う現場である。 私の役割はその現場力の底上げだ。例えば、金融経済情勢の調査では、できる限り多くの企業を訪ね、生の声に耳を傾ける。さまざまな気付きを得て、問題意識を深める。特に、今日のように経済環境が大きく変化している局面では現場で得る感覚が一段と重要である。また支店内では、少なくとも年1回は職員全員と面談し、現場を支える職員の心情と向かい合う。いずれにせよ、支店長室にこもっているだけでは気付きを得ることもできない。 景気は持ち直しているが、なお厳しい。先行きの不透明感も根強い。こうした状況であればこそ、一人一人が、おのおのの持ち場で蓄積してきた現場力を信じ、その向上に一意専心努力することが重要である。 (上毛新聞 2010年1月12日掲載) |