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石北医院小児科医師  石北 隆(渋川市渋川)  



【略歴】前橋高、東邦大医学部卒。医学博士。東邦大学医学部客員講師、日本小児科学会認定専門医、日本アレルギー学会認定専門医、日本小児科医会子どもの心相談医。



子どものワクチン事情



VPD知り接種促進を




 「VPDを知って、子どもを守ろう」の会という予防接種を推進する全国の小児科医を中心とした集まりがあります。VPDとは「ワクチンで防げる病気」のことです。

 感染症は子どもの病気、予防接種は子どもが受けるものと思っていた方も、新型インフルエンザの流行に考えを改めたかもしれません。残念ながら日本は欧米諸国に比べ予防接種行政が大変遅れています。海外で一般的に使用されていても、日本には導入されていないワクチンが多数あります。先進国と言いながらVPDによって亡くなったり、後遺症を残す子どもたちが現在も大勢います。

 一昨年から今年にかけて、多くの小児科医が待ち望んでいた2種類のワクチンが相次いで認可されました。乳幼児用のインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンと7価肺炎球菌ワクチンです。インフルエンザ菌も肺炎球菌も子どもたちの細菌感染症の代表格です。のどや鼻に存在し髄膜炎をはじめとした重症感染症を引き起こします。それぞれ細かな種類があり、すべての菌に有効とは言えませんが、どちらのワクチンも感染症の予防に大変効果があり、海外では約100カ国で10年以上前から導入され、WHOも定期接種に組み込むことを推奨しています。

 実はつい最近、米国ではより新しい13価肺炎球菌ワクチンも認可されました。ヒブと肺炎球菌はわが国の乳幼児細菌性髄膜炎の原因菌の約9割を占め、毎年1000人近くが発症し、およそ3割の方が死亡したり後遺症を残しています。2つのワクチンを10年以上前から取り入れた米国では、ヒブよる細菌性髄膜炎患者はほとんど見られなくなり、肺炎球菌によるものも10%以下に減少しました。

 これらのワクチンが普及することにより、重症感染症の減少が期待できるだけでなく、臨床現場では不必要な抗菌薬の投与とそれによる薬剤耐性菌の減少、地域の保菌者が減少すれば高齢者の細菌性肺炎の減少も期待でき、国の膨大な医療費の削減の手助けともなるでしょう。

 2種類とも発売されるのは輸入ワクチンです。昨年末には子宮頚(けい)がん予防ワクチンも発売されました。残念ながら、どれも任意(有料)接種のため、予定通りに複数回接種すると家計には高額の負担となります。一部の自治体は接種に助成を行っていますが地域格差は顕著です。国内需要が高まり、国内メーカーが生産し、広く普及すればもっと安く接種できるでしょう。国の主導で早急に定期(公費)接種となることを望みます。政治、行政に携わる方々もぜひともVPDを知ってください。






(上毛新聞 2010年1月10日掲載)