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◎棲みにくくなった日本 「イギリスでスズメが消滅!?」。2001年4月5日付朝日新聞夕刊の記事は衝撃的であった。当時、ブレア首相は原因究明のため18万ポンド(約3000万円)を支出したと報じている。イギリスのどこにでも普通に生息していたスズメ(正確にはイエスズメ)が、過去25年で9割も減少したなど、信じ難いことだ。 筆者は、90年夏にロンドンでスズメの生態調査を行ったことがある。都心のセントジェームス公園では、人を恐れずに手のひらに乗り、粒餌をつつく光景をよく見かけた。人を信頼しきっているスズメの姿は、さすが野鳥保護先進国だと感心したものだ。激減の原因は不明だが、食料自給率を高めるために農地を拡大、小麦の単作が行われ、しかも収穫技術の進歩により野生動物が利用できるおこぼれの食料が激減したことも原因の一つらしい。スズメ以外にも昆虫やノウサギ、キツネなども激減。狩猟文化の伝統のあるイギリスにあっては、事態はより深刻である。 では、日本のスズメはどうだろう。家のまわりや公園など、いたるところに生息しているように見える。農家にとっては、時には害鳥であり、駆除の対象でもある。ところが、そのスズメが日本でも減少傾向にあるらしい。 メダカがそうであったように、いつの間にか姿を消してしまう。そんなことが起こらないとも限らないのだ。 スズメは、人の住む環境に適応しながら繁栄してきた鳥だ。地味な色彩と鳴き声のために、人に気づかれないように人家の屋根や軒下のすき間などで子育てをしてきた。人の住環境は、スズメの天敵であるヘビや猛禽(もうきん)類が近寄りにくいことを知っての生き残り戦略である。スズメは森を切り開き、別荘や住宅を建ててもすぐにはやってこない。人が定住して初めてスズメも定着する。スズメの生息は、そこに人が暮らしている証しでもある。人が安心して住める環境だということをスズメが認知してくれている、と言ってもいいだろう。 スズメにとって最近の日本は棲(す)みにくくなった。新築の建物では機密性が高く、営巣に適したすき間は皆無である。しかも、地方の過疎化は深刻で、限界集落からは人もスズメも姿を消している。他方、東京のような巨大都市でも、都市再開発や都市空洞化により夜間人口は極めて少なく、過疎の村に等しい。スズメのいない都心が、人にとって良好な住環境かどうかは疑問である。東京への一極集中と疲弊する農漁村という日本経済の「光と影」の両極端で、スズメは確実に減少傾向にある。消滅の危機にあるロンドンのスズメをもって、はたして他山の石となし得るであろうか。 (上毛新聞 2010年1月6日掲載) |