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◎自然との調和の中に 火山活動などで誕生した地表面は、風や雨などの浸食を受けながら崩壊していきます。不毛だった土地にはコケなどの地衣類が侵入し、次には草本類が侵入して草地を作り、低木林、陽樹の森へと変化し、やがては陰樹の森となって安定した状態にたどりつきます。このような移り変わりを遷移と呼び、安定した状態を極相と言います。極相に達した森林の中では、生物の種類も多く、調和のとれている生態系が存在します。 このような生態系は、その構成種が多いほど安定します。最近では、生物多様性という言葉で表現されますが、生物多様性に富んでいると生物の一種である人類も安心して生活することができます。なぜ生物多様性に富んでいると安心して生活できるかを説明しようとすれば、「ドジョウがいるからわれわれも生きられる」というわかりにくい話になってしまいますが、豊かな自然の中で暮らした方が、砂漠や極地のような厳しい自然の中で暮らすより安心できると考えてもらえれば簡単かもしれません。 最近、問題となっている野生鳥獣による農作物への被害は、群馬県だけでも毎年約4億円もの被害を出しています。こういった特定の種が増えすぎることは、生物多様性の豊かさを損なうことにつながります。この被害対策を怠れば、その結果は大きな環境災害へとつながるのも周知の事実なのです。そんな現実に目を向けることなく、残酷だ、かわいそうだという感情論にこれまでマスコミも同調してきた感があります。しかし、生物多様性の重要性が認識され始めてからは、そのような感情論に流される報道も減りつつあります。 バックミンスター・フラーは、地球を「宇宙船地球号」という乗り物だと言っています。一方、ジェームズ・ラブロックは、地球を「ガイア」という生物だと言っています。ここには矛盾があります。しかし、リチャード・ドーキンスが「利己的な遺伝子」で言った「人間は遺伝子の乗り物」という言葉でこの矛盾は解決します。人間もいわば地球という生物の遺伝子です。だから利己的だし増殖も続けます。火星へのテラフォーミングも考えます。地球は自分の子孫を創つくろうとします。生き物としてこれは必然です。ミヒャエル・エンデは人間を増殖する地球のがん細胞にたとえたけれど、人間は増殖する「生殖細胞」だと考えることもできます。ただ、誰もが地球破壊に加担して「がん細胞」になりうるということです。結局は、地球に生きるわれわれは、自然との調和の中でしか生き残ることはできない存在なのです。 豊かさを金銭の多寡で計る人もいるでしょう。でも、本当の豊かさは自然との調和の中に見いだされるべきものだと思います。 (上毛新聞 2010年1月5日掲載) |