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音曲師  柳家 紫文(東京都杉並区)  



【略歴】高崎市出身。1988年、常盤津三味線方として歌舞伎座に出演。95年、2代目柳家紫朝に入門。都内の寄席に出演中。著書に『紫文式都々逸のススメ』など。


都々逸のススメ



庶民にとって身近な型




 みなさんは「都々逸」という唄(うた)をご存じでしょうか?

 恋に焦がれて 啼(な)く蝉(せみ)よりも 啼かぬ蛍が 身を焦がす

 これは、その都々逸でよく唄われた文句です。この都々逸、年配の方なら覚えがあると思いますが、若い方は、都々逸という言葉さえご存じないかと思います。

 都々逸というのは、七七七五の定型でできている唄です。が、唄としてではない七七七五の定型句なら、総じて都々逸と呼んでいます。歌わなくても「短歌」というのと、ある意味で同じというところでしょうか。

 そんなわけで、唄わなくても短歌、俳句、川柳のように自由に作って楽しむことができます。

 七七七五というと、「そんな定型句があるのですか」などとよく言われます。が、これが大変な勘違いでして、五七五の型よりも、七七七五のほうが、実は庶民にとっては身近な、だれでも知っていたものでした。民謡の文句は、実は七七七五が圧倒的に多いのです。

 目出度(めでた)目出度の 若松さまよ 枝も栄えて 葉も茂る

 佐渡へ佐渡へと 草木もなびく 佐渡はいよいか住みよいか

 土佐の高知の 播磨屋橋 で 坊さん簪(かんざし) 買うを見た

 どうです、みな七七七五です。みなさんも他の民謡を思い出してみてください。いかに七七七五の型が多いかがおわかりになると思います。ではこれは?

 信州信濃の 新ソバよりも 私ゃ貴方の そばがいい

 立てば芍薬(しゃくやく) 座れば牡丹(ぼたん) 歩く姿は 百合の花

 実は教科書にもこんなものが載っていました。

 散切り頭を 叩(たた)いてみれば 文明開化の 音がする

 みなさん、きっとご存じでしょう。これらもみな都々逸です。ただ残念ながら、ほとんどの方が、それが七七七五であり、都々逸だということを知りません。

 そんな肩身の狭い都々逸ですが、実は最近、少し注目されてきています。

 私事でも、都々逸の本をださせていただいたり、雑誌で取り上げてもらったり。ニッポン放送では、昼の帯番組の中に「どんとこい都々逸道場」というコーナーもできました。


 雲龍型か 不知火型か よく見りゃ女房の フラダンス

 なんて、こんな楽しい都々逸がたくさん投稿されてきています。

 川柳や俳句などとは一味違うこの都々逸、みなさんも作ってみませんか? なかなか乙なものですよ。






(上毛新聞 2010年1月3日掲載)