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独立法人 高齢・障害者雇用支援機構
群馬障害者職業センター主任障害者職業カウンセラー 
                           中村 志美
(前橋市天川大島町)  



【略歴】日本女子大卒。1994年に就職し、北海道と千葉のセンターや国立職業リハビリテーションセンターなどで障害者の就労支援に従事。2009年4月から現職。


相談者の期待と不安



力を引き出し安心感を




 最近職場で健康相談を受ける機会があった。考えを整理してから当日を迎えたが、戸惑いのあるまま相談が始まり、終わるころには疲労を感じた。

 私は日ごろ、障害者の方の相談を受ける仕事をしているが、今回のような経験をすると、相談者の抱く期待感や不安感をあらためて意識することになる。

 現在勤務している群馬障害者職業センターでは、新たに相談に来られる障害者の方は年間300人ほどで、久しぶりにという方を含めると600人前後の方が来所されている。相談の内容はさまざまで、これから就職したい、今の職場で困っている、復職したい等々である。

 これからの就職を希望する相談の場合、職種や賃金、勤務時間などのご本人の希望を伺うほかに、それまでの仕事の内容や離職の経緯を確認することが多い。先日来られた知的障害者のAさんとも、ご本人がこれまでに数回チャレンジしてきた(けれども離職に至った)経緯を一緒に振り返った。

 相談で離職の経緯を確認するのは、これから先の就職を安定したものにしたいと考えるからだが、実は気をつけていないと課題ばかりを見つけることになってしまい、気がついたら気まずい関係になることもある。Aさんとは「生活のリズムは安定しているか」「身だしなみは整っているか」「同僚とのあいさつ・会話はどうか」「集中して作業に取り組めるか」などを3回にわたってホワイトボードに書き出して話し合った。

 障害者の方の就労では、正確さや手早さという仕事をする能力と同様に、このような日常生活や対人関係面が重要視される場合が多い。頑張り屋のAさんは、作業遂行力を評価されていた一方で、同僚との会話や集中力の持続という点で課題があるようだった。

 Aさんとの相談は、つらい経験であった離職の振り返りも気まずくはならず、再就職に向けた前向きなものとなった。それは、単に離職原因について話し合うのではなく、職場で必要とされることを項目ごとに自己採点してもらったこと、そしてできていたことを確認したこと、さらにAさん自身に「これから何をしたいのか、そのためにどうするのか」を考えていただく相談であったからだと思う。ご本人が自信を回復し、安心感をベースに次の目標を自ら決め、チャレンジしていくことを支えるのが、支援者の大きな役割ではないだろうか。

 翻って、私が戸惑いを感じた健康相談はどうだったのだろうか。自分の状況をわかってほしいという期待感と、問題は解決するのだろうかという不安が戸惑いにつながっていたのだろう。私の相談に対応した保健師の「そこに気付くことができているのだから、大丈夫ですよ」の一言が、安心感と次の意欲に繋(つな)がった。







(上毛新聞 2009年12月31日掲載)