視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
. | |
|
|
◎支援の形を見直して 昭和25年生まれの私の故郷は美濃焼の産地で、友達の大半の家庭が窯業関係の仕事に就いていた。商売の構えは小さくても親が老いれば子どもの誰かが家業を継ぐのがふつうだった。 夫もまた農家の後継者として育った世代だが、農村の疲弊はすでに始まっていて、夫は農業以外の道を模索して大学に進んだという。 公務員として暮らし始めた私たちだったが、縁あって再び農業に回帰する時がきた。就農を決意したときにはまともに使える機械は何も残っておらず、ゼロから始めたとそのときには思ったのだから、いい気なものである。 以来20年、有機稲作の技術もほぼ確立し、経営も安定したことから、私たちの農園では数年前から研修生の受け入れを始めた。 独立自営を目指すことを条件に受け入れるのであるが、有機農業には農外からの希望者が圧倒的に多い。やる気もあり人一倍頑張る彼らだが、いざ独立ということになると簡単ではない。農業機械の調達や運転資金などもそのひとつだが、昨今は新規就農者への公的支援はそれなりに整備されてきている。しかし農外からの参入者は農地と農作業小屋を自力で確保しないかぎり公的支援の対象となる新規就農者として認定されないのが実態だ。 私たちが就農したときには公的支援は何もなかったが、親が残してくれた農地と作業所のおかげで最初の一歩を踏みだすことができた。後進を育成する立場になってそのありがたさが今さらながら身にしみる。 後継者のいない農家では農業設備等が使われないままに放置されて朽ちていく一方で、地縁も血縁もない若者が農業を始めるには、思いきった借金で前へと進むしかない。彼らが投資する資金が果たして一代で回収できるのやらと、気がもめる。その次の世代が家業を継ぐとは限らないのであればなおさらだ。 安心して家業を継げる時代ではなくなって、日本中のあちこちで同じようなことが起こっているだろう。 ここらで行政も支援の形を見直して、今ある設備をうまく使い回せるようなコーディネート役をかって出ることはできないだろうか。遊休設備を借り上げて整備し賃料を課して貸し出すなど財政負担を伴わない支援のあり方もあるのではないか。 そんなことを考えていたら、久々に実家の姉が電話をかけてきた。息子が跡を継ぎたいといってくれたがあきらめさせたという。もう茶わん屋で暮らしていける時代じゃなくなっちゃったのよね、と嘆息した姉のことばに胸を突かれた。時代が大きく舵(かじ)を切ったのは感じるけれど、その時代の先が見えない。薄暗がりが広がるばかりだ。 (上毛新聞 2009年12月29日掲載) |