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◎郷土の文化財は地元に この夏、群馬県立歴史博物館で開館30周年記念展「国宝武人ハニワ、群馬へ帰る!」が開催された。展示された埴輪(はにわ)は、国宝や重要文化財および重要文化財級の優品約300点。畿内の大王墓や東国の主要古墳と比較しても引けをとらない、見ごたえのある埴輪が一堂に集まった。約2カ月の開催期間中に、県内外から約3万7000人もの観覧者が訪れたという盛況ぶりだった。 とくに、太田市出土の国宝「桂甲武人埴輪」は、考古学的に見ても貴重な資料だが、その造形の美しさが際立った。しかし不思議なことに、この埴輪は群馬県出土なのに、東京国立博物館の所蔵であるため東京都の国宝である。群馬県には国宝が一つもない。現在、全国で国宝に指定されているものは1076件あるが、国宝を持たない県は徳島県・佐賀県・宮崎県・群馬県の4県だけである。群馬県民としては、実に残念な話である。 一方、私のかかわっている多胡碑はというと、国特別史跡に指定されている。国宝が単品を美術的な観点から見るのに対して、特別史跡は面的な広がりがあり、その空間も含まれる。多胡碑は多胡碑だけでなく、周辺の敷地も含めて重要な場所と考えられている。国指定の特別史跡は全国に61件と、国宝よりはずっと数が少なくなるが、群馬県には多胡碑のほかに、山上碑および古墳と金井沢碑があり、これは上野三碑と呼ばれる3件である。 展覧会を企画するとき、地元で出土したものを展示することも多い。指定を受けている文化財ばかりではないが、所蔵が散逸していて、あちこちから借用することになる。その度に、もともとこの土地にあったものを借りるというジレンマに陥るが、所在についてはさまざまな経緯があり、保存・管理を考えれば一概には言えないところもある。しかし、私は、郷土の文化財は地元の人に知っていただく機会を多くつくりたいと考えている。できる限り、郷土の人々が守り、語り伝えられていくのが望ましい。里帰りした文化財は気のせいか、ふるさとの空気を吸って生き生きとして見える。 多胡碑は、地元では「ひつじさま」と呼ばれ、「羊太夫伝説」も伝えられて崇敬されている。上毛かるたにも「昔を語る多胡の古碑」という札があり、群馬県民にも広く知られている。多胡碑は、所在が変わらずにその場所にあることが、郷土の文化財として人々の心のシンボルとなっている理由の一つなのかもしれない。この夏、県立歴史博物館記念展を観覧し、この時ほど目の前にある国宝が群馬の国宝であったらと強く願ったことはなかった。 (上毛新聞 2009年12月22日掲載) |