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◎まず日本に目を向けて 国際協力活動を始めて今年でちょうど10年になる。この間、かけがえのないたくさんのことを学んだ。中でも最も大切な気づきは日本に目を向けるということであった。国際協力という活動は、つい国外に目が向きがちである。でも一体、われわれは何をよりどころとして国際協力をしようとしているのだろうか。日本は援助国の中でも唯一発展途上国であった経験を有している。その経験、心理的近さをよりどころとしてこそ、途上国の人々にとって有用な協力ができるのではなかろうか。 農業関係の研修をしていると、今まで気づかなかった先人の苦労・知恵・工夫の積み重ねに目を見張る。「日本は高度成長によって一挙に豊かになった」という見方は事象の上では正しいかもしれないが、人的資源の開発という面からは明らかに観察力を欠いている。その後のオイルショックから始まる停滞期においてでさえ、技術上の発展に陰りを見せず、むしろ世界に冠たる高品質・低コスト技術を獲得できたのは、それまでに培われた観察・問題発見・工夫というサイクルとそれらを生かす環境を整えたからではなかろうか。それは「改善」という言葉で表される、無駄を極力省いて、今あるリソースをフルに活用するという地道な努力の積み重ねであったと感じる。 青年海外協力隊員として活動していたころに、パナマの村人からよく発せられた言葉は、「日本は金持ちだから」というものである。それは「金持ちの日本人におれたちの気持ちなんか分かるかよ!」、あるいは「金持ちなんだからおれたちを助けるのは当たり前だろ」ということであろうか。その都度私はこう言い返したものである。「日本人には苦労と努力があったんだ。結果ばかり見ずにプロセスを見ろ!」と。だが、そのプロセスを語るには自分はあまりにも勉強不足だった。 研修生にぜひ学んでもらいたいのは、発展段階のプロセスである。研修生にとって新しい技術や知識というものは有用であろう。だがその技術や知識が古くなるころに、果たして彼らは自分でさらに新しいものを開発・発見できるだけの気概があろうか。甘楽富岡地域で研修を行っているが、地元の方々が途上国の研修員たちに野菜の作り方、マーケティングのコツを気軽に教えているのを端から見ていて当初は気が気でなかった。「そんなに教えて、どんどん日本に輸出されたら大変では」。でも、地元の人の顔には「そうなったらそうなったで、また新しいものを考えればよい」という自信がみなぎっていた。彼らは、どうやったら今以上の生活を手に入れることができるか、ずっと考えてきた筋金入りの人々である。 (上毛新聞 2009年11月26日掲載) |