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◎官民協働で森づくりを 大阪府堺市の下町で生まれ、新興住宅地で育った私にとって、中学3年生の修学旅行で見た信州・霧ケ峰高原の草原の緑は、鮮烈なイメージで脳裏に焼き付きました。今にして思えば、レンゲツツジとニッコウキスゲの幕あいつなぎの季節で少々物足りない風景でしたが、その時から「いつかこんな所で住みたい、働きたい」と漠然と意識するようになりました。おりしも、南アルプススーパー林道開設、白神山地や知床半島の原生林伐採、宮崎駿監督「風の谷のナウシカ」の大ヒットなど環境問題を想起しない日はありませんでした。 当然、就職先は、緑と一番関係の深い林野庁となりました。往復3時間の通勤地獄、連日が深夜残業の霞ケ関勤務を除けば、自然や森林と直接かかわれる仕事ができ感謝しています。赤谷森林環境保全ふれあいセンターでは、地域、自然保護団体、国が協働で生物多様性の復元や持続的な地域づくりに取り組む「赤谷プロジェクト」に携わっています。活動の舞台は、群馬県みなかみ町北部(旧新治村)で、新潟県との県境、谷川連峰最高峰・仙ノ倉山から国道17号線沿いまで広がる、約1万ヘクタールの国有林「赤谷の森」です。 「赤谷の森」は、標高差に富み、ブナ、ミズナラ、トチノキ等の自然林、かつて薪炭林として活用されていたコナラ林、スギ等の人工林があるなど、多彩な表情を持っています。また、太平洋側と日本海側両者の自然の特色を持つ地域であり、大型猛禽(もうきん)類であるイヌワシ、クマタカも飛翔(ひしょう)する豊かな自然環境を有しています。国道17号線沿いには、上杉謙信の関東出兵、参勤交代、戊辰戦争の舞台ともなった旧三国街道があり、歴史的遺産にも恵まれています。 その一方、「赤谷の森」は、人間との長いかかわり合いの歴史の中で、その姿を変えています。「生物多様性の復元」と言えば難しいですが、要は、本来そこにいるはずの動植物が生きていける自然環境に戻していく取り組みです。ただ、相手は自然なので、大変息の長い仕事です。こうやったら、ブナの森が出来た、イヌワシが増えたというわけにはいきません。 そこで、ボランティアの方々の協力も得て、森がどのようなメカニズムで復元していくのか、イヌワシ、クマタカの生態はどうなっているのかなど、さまざまなモニタリング調査を進めています。本年度は、治山ダムの中央部を撤去して、上下流の川の連続性を復活させ、渓流環境の復元を図る試みも開始されました。 皆さんのごく身近に、豊かな自然環境、歴史的遺産があり、官民協働による先駆的プロジェクトが進行していることにぜひ、注目してください。 (上毛新聞 2009年11月25日掲載) |