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農業・食品産業技術総合研究機構理事・中央農業総合研究センター所長  
                           丸山 清明
(茨城県つくば市)  



【略歴】前橋市出身。東京大農学部卒。北陸農業試験場(稲の育種)、作物研究所長、北海道農業研究センター所長などを歴任。農学博士。2006年8月から現職。



人口の増加


◎獲得できる食料に比例



 人類はアフリカで発生した。約200万年前に出現したホモ・エレクトスから人間らしくなり、石器を使い、火も使った。その後、人類は周期的に訪れる気候変動によって何度も絶滅の危機に瀕した。しかし、それを乗り越えるたびに、人類は新たな進化を遂げてきた。

 そして、約20万年ほど前に、エチオピア付近でホモ・サピエンスが生まれた。私たちの祖先である。

 最近の説では、ホモ・サピエンスは約8万5千年前に水位の下がった紅海の入り口をアフリカからアラビア半島に渡り、海岸に沿って、貝などを採集しながら「猛スピード」で東進し、少なくとも7万年前には東南アジアに到達したらしい。

 アラビア半島からインド西部までは、当時は砂漠で内陸には進出できなかった。しかし、大河があると左折して内陸に入った。おそらく日本の海岸には約6万年前には到達したはずであるが、当時の海岸線は現在すべて海底なので、考古学的検証は遅れている。

 こうして、オーストラリアには約6万年前に舟で渡り、温暖化した南シベリアでは約4万年前に入り、マンモスを狩った。諸説があるが、南米先端には約2万年前には到達したらしい。

 約1万年前になると、人類は農耕と牧畜を始めた。しかも、1カ所ではなく、地球上のいたるところで独立して農耕と牧畜を始めた。中近東では小麦の栽培や牛・羊の牧畜、東南アジアや中国では稲やイモ(ヤムイモとタロイモ)、中南米ではトウモロコシやイモ(サツマイモとジャガイモ)の栽培がほぼ同時期に始まっている。

 人類が農耕と牧畜を始めた理由は簡単であろう。過度の採集と狩猟のため獲得できる食料が減り、「やむをえず」農耕と牧畜を始めたのだろう。農耕を始めることができたのは、ホモ・サピエンスの能力のひとつである。

 金という金属の使用は旧大陸ではエジプトで4千年前が最初といわれているが、それとは独立にインカで黄金文化が栄えた。ゼロの発見はインド人といわれるが、マヤの人もゼロを使っていた。私たちホモ・サピエンスの大脳はこのような能力を持つのである。

 農耕と牧畜を始める前の世界の人口は約500万人と推定されている。それが、農耕と牧畜が始まって以来、人口は急速に増え始め、ヨーロッパで産業革命が始まったころには、約5億人と推定されている。

 その後、科学の知識が農業技術に導入され、1961年の統計では約30億人、今年で約68億人である。人類はネズミと同様に、獲得できる食料の分だけ増えてきた。






(上毛新聞 2009年11月20日掲載)