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◎見直された鉾の価値 今や、あちらこちらの自治体が競って観光に力を注いでいる。そして国レベルでも本気になって取り組み始めたようだ。 かつて観光という言葉は、各地を訪ねて風景や風物、史跡などを見て歩くものだった。つまり諸国漫遊であろうか。それが今では驚くほど広範な分野が観光の財産となった。価値観の多様化と、宣伝力と情報によるところが大きいといえるだろう。 群馬県は自然や歴史はもちろん、温泉、祭り、伝統芸能、街並み、芸術、文学などに加えて、昨今では近代化産業遺産や映画ロケ地の話題でもにぎやかである。 今や知への好奇心と、学ぶ意欲が観光のジャンルを広げている現れでもある。そしてそれらを支えているのが、まさに団塊の世代を中心とした中高年である。今後は、より細分化された個性的な旅を自ら選択するだろう。また、造られたものから、素朴で、ありのままの姿を望む時代になるように思える。訪問者と地元の人のより良い関係を求めて。 私が関係する分野も、すべてが観光に結びつくことに気が付く。 一例を挙げてみよう。桐生祇園祭は354年の歴史がありながら、近年では桐生八木節まつりの陰に隠れてしまっていた。「関東の三大夜祭」といわれた伝説は過去のことだった。 しかし、この十数年で様変わりしたのである。全国に誇れる鉾(ほこ)(山車)と、巨大祇園屋台があるではないか。文久2年の「翁鉾」。明治8年の「四丁目鉾」。そして、安政元年以降の6台の巨大屋台。めったに曳(ひ)き出せないが故に、関東はもとより関西各地からの見学者でにぎわうまでになった。 その間、文化庁や群馬県、桐生市の助成を受けながら、修繕、保存と活用に力点を置いてきた。 中でも「四丁目鉾」の生人形師・松本喜三郎の最高傑作「スサノオノミコト」は、祭礼芸術の貴重な作品である。「国立科学博物館」「たばこと塩の博物館」「熊本市現代美術館」などへの貸し出し展示はその証しとなるだろう。 そして2年前の秋、東京千代田区主催の「江戸天下祭」では県内初招(聘しょうへい)を受け、日比谷公園での展示や、丸の内一周の山車巡行に参加した。観衆は、参加の山車のなか最大規模で、桐生の「四丁目鉾」が9・2メートルの高さに驚き、果ては20分かけての困難な回転作業に興奮したのである。 再び、「生人形」は来年10月、いよいよ神々の集まる「古代出雲歴史博物館」へ、観光親善大使としてひと足早く、長い旅に出かけるのである。 (上毛新聞 2009年11月17日掲載) |