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群馬大非常勤講師  辛島 博善(千葉市稲毛区)  




【略歴】慶応大文学部史学科卒。東京外語大大学院地域文化研究科博士前期課程修了。モンゴル国立大大学院地理学研究科留学。2008年から群馬大、前橋工科大非常勤講師。



モンゴルの商店に学ぶ



◎人間関係が繁盛の鍵




 草原の国というイメージの強いモンゴル国ですが、首都ウランバートルには総人口の約38%にあたる103万人ほどが暮らしており、そこで暮らす人々が日用品を買い求める商店が軒を連ねています。商店の店舗は、市場や商業施設の中だけでなく、露天や古いコンテナを利用したもの、そしてマンションの1階を改造したものまで、その形態はさまざまです。

 商業施設の中に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが店棚です。例えば食料品店であれば、たたみ1、2畳ほどのスペースに、調味料やお菓子、米や小麦粉などが所狭しと並べられています。ところが、ここで奇妙な光景に出くわすことになります。隣の店棚に目を遣ると、同じ品ぞろえの棚が並んでいることも珍しくありません。価格もほぼ横並びで、それぞれの特色が全くありません。屋号があるわけではなく、実はひとつのお店なのではないか、と疑いたくなりますが、それぞれの店棚には別々に店員さんがおり、やはりひとつのお店というわけではありません。仕入れのルートが限られていることを考えれば、店頭に並ぶ商品が似通ってくることには合点がいきますが、それだけでこの奇妙な光景を説明することはできません。立ち居並ぶこうした店は果たして商売として成り立っているか、どうしても疑問がわいてきてしまいます。

 この疑問を解明することができたのは、モンゴル人の友人と市場に行った時のことです。ここでもやはり同じものを売る店が軒を連ねています。多くの店の中から、友人は目当ての店に直行しました。帰り際に友人は「小麦粉を買うときにはこの人から買いなさい」と私に言いました。市場で粗悪品を買わされたり、「ぼったくられ」たりするのは決して外国人観光客だけではありません。市場での買い物は地元の人々にとっても決して油断できないものであり、それゆえ、安心できる売り手と顔見知りになっておくことがそうしたリスクを低減させることにつながるのです。友人の発言が「この店」ではなく「この人」であったことも、そう考えれば納得できるものです。このように、たとえ全く同じものを売る店であっても、そして屋号や看板がなくても、買い手にとって同じお店であるわけではなく、買い手と売り手の関係こそが個々の店の「特色」だったのです。

 ひとりの消費者として価格破壊や通信販売の恩恵にあずかっている私ですが、それでもこうした「特色」を持つ店に魅力を感じてしまいます。人間関係という「特色」はやはり安心感と商売繁盛の鍵を握っているに違いありません。





(上毛新聞 2009年10月27日掲載)