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◎「誰のために」忘れずに 少し古い話になりますが、今年も国産ワインコンクールの審査会が7月末にあり、入賞ワインの公開テイスティングと表彰式が8月末に行われました。シャトージュンワイナリーでは、今年で6年連続の入賞を果たすことができました。赤ワインが2点、白ワインが1点の合計3点です。 年々審査の基準が厳しくなり、入賞するのも大変なことになってきました。これは、国産ワインのレベルが年々上昇してきていることにほかならないわけですが、おいしいワイン、よいワインは皆等しく評価してほしいという思いもあります。というのも、一次審査を通過できる本数がおおむね決まっているので、ある程度のラインで足切りされてしまうからです。 大手ワイナリーなどでは、全部の部門を通じて50アイテム以上もエントリーするらしいです。われわれ小規模ワイナリーは多くても四つか五つエントリーするのがやっとです。エントリー費も安いものではありません。この結果に一喜一憂している私などはまだまだ青い造り手なわけですが、やはり公の場で評価されることはうれしいものです。半面、自信のあったワインが一次審査を通過しなかった場合など、その落ち込みようと言ったら半端なものではありません。ワインは嗜好(しこう)品ですから、入賞していないワインだからおいしくないというわけではありません。合わせる料理や誰と飲むかなどシチュエーション次第でまったく違った結果になります。誰にでも思い出のある酒ってあると思うのです。それは決して高いものではなかったりしますよね。 しかし、コンクールという目標があると、入賞ワインを造ろうと、アスリートのようにストイックにワイン造りにのめり込んでしまう時があります。あらゆる技法を駆使して審査員が驚くようなワインを造ろうと考えてしまうのです。いったい誰のためにワインを造っているのでしょうか。この6年間はこんなことの繰り返しです。そんな時、直売所を訪れてくれるお客さまに「飲みやすくておいしい」とか「このワインは自分好み」などと言われてわれに返るのです。審査員に批評されるためではなく、ワインで楽しい時間を過ごそうと思ってくれる人たちのために造っていたのだと気が付くのです。 私はこの「誰のために造るのか」という気持ちをブドウ農家とも共有したいと思っています。食品である以上は正直で偽りのないもの造りの精神をワインにかかわる人全員で共有したいと思っているのです。 グラスの中から造り手の思いやブドウの育った風土、あるいは言葉では表現できない何かを感じることができる。そんなワインのことをフィネスのあるワインと呼びます。 (上毛新聞 2009年10月24日掲載) |