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二科会デザイン部会員(審査員)   鳥越 修治(東京都世田谷区)  




【略歴】前橋市出身。鳥越デザイン事務所代表。二科会デザイン部会員賞12回受賞ほか。日本グラフィックデザイナー協会委員。あかぎ国体デザイン専門委員も務めた。



ベトナム・アート紀行



◎深い共感が文化交流へ




 アオザイの、美しい民族衣裳をイメージさせるような、南北に細く長い国土を持ち、ダイナミックに経済成長しているベトナムは、インドシナ半島の東側に位置している。国の広さは日本の九州を除いた面積とほぼ同じである。

 私は、2006年から3回にわたって、ベトナム経済研究所のベトナム視察旅行に同行した。北部のハノイから中央部のダナン、そして南部のホーチミン、山間部のダラットを訪問し、家具製造工場、縫製工場、竹細工工房、花栽培地帯などを見て回った。また、世界遺産の王朝都市フエ、交易都市であったホイアンにも足を延ばした。

 ホイアンは、日本人が架けた由緒ある「来遠橋」が有名で観光客でにぎわっていた。この地の一角に刺繍(ししゅう)工房があり、魅力的な数多くの作品に出合うことができた。制作中の工房見学では、50名ほどの熟練女性が、染色された柔らかな数百本もある絹糸を細やかに、丁寧に、正確に刺すさまは見事であった。

 視察の合間を縫って、画廊などでベトナムのアート作品も鑑賞した。漆画、絹絵、油彩などに目が止まる。その瞬間、多くの作品からなぜか深い親近感を覚え、魅了されてしまった。それらの作品には日本人の琴線に触れるものがあるようだ。ベトナムの人々は日本人と心情的な感覚で共通点をもち、勤勉で器用、そして優雅でしなやかである。

 その文化は、フランスや中国、インドなどさまざまな国の影響を受けながら、それらの文化を学び取り、しかし同化せず、ベトナム本来の特質と独自性に満ちた国民性を基礎に、形成されていった。

 漆画は、ベトナムの代表的な伝統芸術のひとつで、日本の漆工芸とは違い、独特の個性が表現されている。繊細な感覚の中に大胆で力強いエネルギーに満ちた芸術性は、近年、特に日本の人々には深い共感を持って受けとめられている。

 私たちは関係者の配慮により、ハノイの文化庁で国際協力局長と面会することができた。話題は両国の文化財の継承と保護について、現代文化の対応と発展、その流れへと話が弾み、最後に両国の文化交流展の話にまで及んだ。その後、グラフィックデザイン会社の視察に臨んだとき、計画中のデザイン展への日本からの出品の誘いを受けた。

 帰国後、私が窓口となり、選抜した有志で交流展への運びとなった。その作品は、会場のメーンステージに展示され、テレビや新聞等の報道があって、その作品集も出版され好評であった。

 私はこの視察を通し、お互いの文化を知り、共鳴し合うことで、理解を深めていくことの大切さを実感した。グローバル化の中、両国の文化交流がますます発展していくことを願ってやまない。





(上毛新聞 2009年10月11日掲載)