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◎普遍的な価値を明快に ユネスコ世界遺産委員会において、昨年は「平泉の文化遺産」、今年は「西洋美術館」と、日本が推薦した文化遺産が続けて登録延期となりました。群馬県と協働して「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界遺産登録運動を展開している富岡製糸場世界遺産伝道師協会にも動揺が走ったのではないかと、あるマスコミから取材がありました。私は「伝道師協会は全く動揺していない」と回答しましたが、その回答が記事になることはありませんでした。 年々難しくなっているとされる世界遺産の登録の問題を平泉の文化遺産と比較しながら考えてみましょう。世界遺産に登録しようとする時、その文化遺産からどのようなストーリーを構成して、世界遺産委員会の専門家の方々に説明し、納得してもらうのか、ということが大変重要になります。平泉の場合、浄土教という宗教的要素を持った文化遺産と平安時代の荘園制度という社会経済史的な遺産を組み合わせてしまったことで、世界遺産として必要な顕著で普遍的な価値の説明の論理を複雑で分かり難いものにしてしまったことがあったと思われます。 この反省に立って考えると、世界遺産登録を確実なものとするためには、構成する文化遺産の普遍的な価値を明快で分かりやすいストーリーとして推薦書に取りまとめ世界遺産委員会に提出する必要があると言えます。本県の「絹産業遺産群」は全て「養蚕・製糸・織物」という絹産業の一貫したシステムで構成されており、見ただけでわかるものであり、普遍的な価値の論理も分かりやすくまとめられると考えられます。 富岡製糸場の操業を契機として活況を呈した日本の蚕糸業。明治から昭和初期まで生糸により多くの外貨を稼ぎ、その資金が世界有数の工業大国日本の礎となったことは経済史的にも明らかです。また、日本の生糸が大量に欧米で活用されたことで世界のファッションまで変えたのです。つまり、日本の近代化のシンボルであると当時に、欧米の人もかかわりながら世界を動かしてきた絹産業を今に伝える文化遺産なのです。 さて、最近の世界遺産委員会の動向として、文化的景観、産業遺産、20世紀の建造物に重点を置いて登録しようという「グローバル・ストラテジー」という考え方があります。 こうした中、欧州では、近代社会の創造に貢献した産業遺産がすでに数多く登録されています。非西洋圏で初めて自らの力で産業革命を成し遂げた唯一の国である日本。そのシンボルを世界遺産にしようとする運動は、工業国日本としては極めて当たり前の話です。ですから、登録延期が続いても、伝道師協会は、全く動揺することなく、誇りと確信を胸に世界遺産運動にまい進しているのです。 (上毛新聞 2009年10月8日掲載) |