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全国学校栄養士協議会副会長   松本 ふさ江(みなかみ町上津)  




【略歴】聖徳栄養短大卒。民間給食会社勤務を経て、1973年から利根沼田地区の学校給食センターに勤務。2007年から昭和村学校給食センターで管理栄養士。


転換期の学校給食



◎食文化への理解深めて



 「食こそ命」「医食同源」「食は文化のバロメーター」などいろいろな言葉で「食」の重要性が取り上げられています。学校給食にも多くの提言、要望が出され、その「食」の担い手としてあらためて役割の大きさを痛感しているところです。

 学校給食の現場では、その食事が単に子供たちの空腹感を満たし、栄養補給だけのものではなく、多くの思いがぎっしり詰まった1食として、児童生徒にそれらの思いを伝えていかなければなりません。明治22年、山形県を発祥の地として給食が始められ、太平洋戦争などで一時中断され食糧援助に助けられたものの、世界に類をみない優れた制度として100年を超える歴史を重ねてきました。この間、日本の学校給食はいちずに子供たちの健康だけを願い、学校給食法のもと発展させ、同時に家庭における栄養改善も推進され、国民の体位向上に大きく貢献してきました。しかし、優れた部分だけでなく、その功罪が議論されながら今に至っています。

 学校給食法が今年、制定から50余年を経て改正され、学校給食は転換期を迎えています。より良い方向に進めるためには、われわれ栄養士をはじめ、それを担う関係者、食べる側の児童生徒、保護者等々の意識の改革も大きなポイントです。今回の法改正の柱の一つに食文化の継承が挙げられています。食文化はその国の発展に大きくかかわり、国の行く末をも左右する大きなものにつながっているように思います。

 四方を海に囲まれ、魚、海草、米、豆、野菜を中心に構成された日本の食文化は、世界の栄養学者からも「すばらしい」と評価され注目されてきました。しかし、現実には家庭における料理方法や子供たちの嗜し好こうも欧米スタイルに傾き、米よりパスタ、学校給食でも魚より肉料理に人気の上位を明け渡しています。

 こうした現象で、従来の食文化が途切れようとしているのではないか、うまく伝承されていかないのでは―という強い危機感を感じています。これからの食の在り方について学校給食は、今まで以上に積極的に食料の輸入や自給率向上について情報を発信していかなければなりません。自分の命をつなぐ食料の生産は、自然と大きくかかわり、地球環境や民族紛争などにも影響されます。食料の流通が途切れたとき、国民の死活問題に発展しかねない重大なものであることを、わが国の担い手となる子供たちに、いち早く気づいてほしいと思います。

 先人たちが自然に対し畏敬(いけい)の念を抱きながら折々の行事でつないできた大事な食文化について、私たちが少し忘れかけた部分を取り戻しながら、学校給食の存在と役割について再考し、その使命を果たしていきたいと思います。





(上毛新聞 2009年9月30日掲載)