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国土防災技術(株)技術本部副本部長   小菅 尉多(渋川市北牧)  




【略歴】北海道大農学部林学科卒。現職のほか、武蔵流域研究所代表取締役。利根川上流域で発生した土砂移動が下流河川に与える影響について調べている。



河川土砂の移動



◎きめ細かく実態把握を



 河川に分布する礫(れき)は、上流から下流に向かって小さくなっています。この事実について、流水の砂礫を押し流す力に応じて砂礫が分布するという、流水の選択的輸送が卓越した結果であると考える研究者がいます。一方、砂礫が下流に運ばれる過程で、砂礫同士の破砕・摩耗現象が卓越した結果であると考える研究者もいます。前者は河川工学の研究者に多く、後者は河川地形学の研究者に見受けられますが、統一見解は得られていません。

 河川の砂礫が下流に向かって小さくなっているのは、この2つの現象が作用した結果ですが、現在、河川工学、砂防工学では、河床砂礫は破砕・摩耗しないものとして扱われ、流砂現象を解析し、河川計画、砂防計画が策定されています。

 河川の砂礫が流下とともにどのくらい破砕・摩耗するかということについては、1900年以前からヨーロッパ、アメリカで研究が進められてきました。研究対象が下流河川であり、小さい河床砂礫を用いた試験結果でもあるため、河床砂礫の破砕・摩耗効果は小さいとする結果が多く報告されたようです。そのためか、河川、砂防の分野では、砂礫の破砕摩耗現象を考慮しなくても、流砂現象を十分、把握することが可能であるとされてきました。

 ところで、98年の河川審議会総合土砂管理小委員会で、海岸から河川の上流域まで、流砂現象を統一的に把握することの必要性が叫ばれ、流砂系という概念が提言されました。

 利根川流域をみると、下流河川では今も河床に細粒土砂が堆積(たいせき)し、河床が上昇しています。この土砂はどこから運ばれてきたものなのでしょうか。

 群馬県内では、利根川本川には矢木沢ダムをはじめとするダム群が、片品川には薗原ダムが、神流川には下久保ダムが設置され、これらの貯水池に細粒土砂は捕捉(ほそく)されているはずです。

 河床こう配の緩い下流河川では、河床砂礫は小さく、破砕摩耗現象はごく小さいかもしれませんが、上流域の渓流と呼ばれる上流河川では、河床の礫は大きく、河床こう配も急になるため、破砕摩耗現象が卓越し、細粒土砂が生産されているのではないかと私は考えています。

 そこで、20センチ程度の大きな石礫を用いて、ロサンゼルス摩(すり)減り試験機という機械を用いて、いろいろな岩種の石礫の破砕・摩耗現象を調べた結果、岩種ごとに破砕摩耗現象に特徴があり、各岩種とも破砕摩耗することがわかりました。

 今、この石礫の破砕摩耗現象を実際の河川での流下現象にどう変換するかについて考えています。この結果を用いて、河川の土砂の移動実態をきめ細かく把握し、効率的な河川計画、砂防計画が立てられたらと夢見ています。






(上毛新聞 2009年9月18日掲載)