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弁護士   上野 俊夫(館林市本町)  




【略歴】中央大第二経済学部卒。2002年、司法試験合格。都内の実家を離れ、母のふるさと群馬の法律事務所に入所。08年4月、館林市で開業。一橋大大学院修士課程履習中。



覚せい剤の中毒性



◎好奇心で人生破たん



 先日、有名な女優が覚せい剤取締法違反で起訴された。幸せな家庭を築いているイメージだったので残念だ。両親とも逮捕されてしまった小学生のお子さんのことを思うと、痛ましい気持ちになる。

 報道によると、被告人(女優)は「夫と私は精神的に弱い人間です。あのままだと覚せい剤をやり続けていたと思うので、逮捕されて良かった」と供述しているという。私は、今まで10件以上覚せい剤取締法違反の国選弁護を担当した。逮捕された人は、しばしば「捕まって良かった」という発言をする。これはつまり、拘置所など覚せい剤を絶対に使用できない環境でないと、覚せい剤をやめられなかったということだ。覚せい剤の使用は、最初の何回かは気持ちいいという感覚をもたらすことがあるようだ。しかし、その何回かですぐに中毒症となってしまう。覚せい剤中毒になると、覚せい剤が身体から抜けた時に、身体が次の覚せい剤を要求するようになる。そして、そのペースはだんだん早まっていく。

 中毒が進むと、覚せい剤を使用しても、もはや最初のころのような気持ちよさはなくなり、単に禁断症状を緩和するためだけに覚せい剤を使用するようになってしまう。被告人は、「覚せい剤を使い始めて半年たったころ、やめようと思い、夫の覚せい剤をトイレに流した」とも供述しているという。彼女も覚せい剤をやめたいと真剣に思っていたはずだ。トイレに流したときは、これでやめようと決意もしたのだろう。しかし、覚せい剤をトイレに流した後には禁断症状を我慢できなくなり、また使ってしまったのだと思う。

 被告人は自分が意思が弱いからやめられなかったと思っているようだ。読者の中でも同じように思う人がいるかもしれない。しかし、覚せい剤中毒は立派な病気であり、意思が強いからといってやめられるものではない。したがって、大切なことは、はじめから手を出さないということだ。インターネットの普及に伴い、ネット上に覚せい剤の情報があふれ、興味を持つ人がいるかもしれない。また女性にいえることだが、付き合っている男性が覚せい剤の常習者の場合、男性から「一緒にやろう」と勧められることがある。しかし、覚せい剤には「ちょっとだけ」とか「一度きり」という言葉は通用しない。

 被告人は、最初好奇心で「一度きり」という気持ちで覚せい剤を使用したのだろうが、そのときまさか自分が中毒となり逮捕されるとは思ってもみなかっただろう。ちょっとした好奇心が人生を破たんさせたのだ。興味や付き合いで覚せい剤を使用しては絶対にいけない。






(上毛新聞 2009年9月13日掲載)