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前・商工中金前橋支店長   三室 一也(東京都世田谷区)  




【略歴】東京都出身。東京大卒。商工中金前橋支店長を経て、今夏からシステム部副部長。主著に『親と子の[よのなか]科』(ちくま新書)がある。



群馬の人口増やすには



◎暮らしやすさの発信を




 群馬に単身赴任していた中年サラリーマンである。

 東京の家族のもとに戻ってはや1カ月強。わが単身生活の清く正しい営みについて妻が疑惑を持つ可能性があるので、あまり言わないようにしているが、「ああ群馬に戻りたい…」

 たぶん、暮らしやすいのである。自然環境、人間関係、食材などいろいろな面で。

 実は、私が前橋支店長をしている間に、当支店に転勤し当地にて自家を取得した職員がなんと3人もいる。いずれまた転勤で群馬の地を離れる…にもかかわらずである。そう。たぶん、暮らしやすいのである。

 うちの会社をかなり前に定年退職し、これまた前橋にて悠々自適の生活を営んでいる方がいる。その方の話を聞いたことがある。

 「自然が近いのと、東京に住む子供夫婦のもとへも気軽に行けるのが良い」

 なるほど、確かに定年後に沖縄まで引っ込んでしまうと気軽に孫に会うわけにはいかない。

 チャールズ・ティボーというアメリカの経済学のセンセイが「足による投票」という表現を使っている。「住民は自己の選好(せんこう)を満足させてくれる自治体に移り住むことを望み、そうでない自治体からは離れることにより、意見を表明する」という意味だそうな。「選好」って、要はより好みのこと。ああしたい、こうしたいという気持ちのことだと考えればよい。

 群馬という地は、自然に近いところに住みたい、東京の空気も時々吸いたい、という選好を十分満たしてくれるところだということができる。そういう選好をうまくくすぐれば、群馬に対する「足による投票」はもっともっと多くなるのではないだろうか。

 例えば、今私が住んでいる世田谷区。縁組協定を結んでいる川場村へのツアー企画が町内会の回覧で回ってくることがある。こうやって足を運ぶ機会をつくり、好印象を植えつけることも「足による投票」を促す一歩になる。

 既に団塊の世代が定年を迎えつつある。こうしてカイシャというしがらみがなくなる人たちは「足による投票」がお気軽にできるようになるはずである

 なんだかんだ言って地域経済の活性化って、人の頭数が増えるかどうかで決まる部分が大である。大事なのは「足による投票」で、東京という大票田から人口を取り込んでいくことだろう。

 私、ですか? しがらみがなくなったら妻とともに群馬に2票、その時はよろしくどうぞ。

 もっとも、お国の財政破たんを憂えて、みんな足並みそろえて日本自体から足抜け、なんて「足による投票」の反乱が起きないという前提の話ではあるが。






(上毛新聞 2009年9月8日掲載)