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臨床美術士  高庭 多江子(伊勢崎市今泉町)  




【略歴】伊勢崎市内の特別養護老人ホームに14年間勤務。2003年から臨床美術を学び習得。現在も月2回東京で受講しながら、ボランティアでお年寄りに指導を続けている。



手を使う効果



◎右脳刺激し、老化防止




 人間の脳の老化防止に、手を使うことが有効とされている。毎日の生活の中で手を使うことが少なくなると、脳を使う機会も減る。逆に手を動かせば、脳も活発に働き、若さを保つことになる。

 外からの刺激は、まず手の皮膚の中にあるセンサーが受け止め、脊せき髄ずいを通り、脳に伝わり、そこで初めて識別できる仕組みになっている。人間は手でさまざまな刺激を受けながら、脳との複雑な連係によって働いているのである。片手だけで約2万個ものセンサーがあり、体中の皮膚の中でもここが一番数が多いとされている。

 臨床美術で右脳を刺激すると、前頭前野が活性化される。同時に、右脳と左脳をつないでいる「脳梁(りょう)」という神経網芽を通して左脳が刺激され、これによって脳全体が刺激されることになる。

 右脳が活性化されてくると、理由もなく元気になったり、うれしくなってきたりすることがある。前頭前野にあるといわれる「意欲中枢」の働きで、こうした前向きになる作用も、右脳を刺激する利点と言える。臨床美術のように、手を使って状況を判断しながら新しい形を作っていくことには、そんな効果がある。

 人間の認知情報の6割程度目は視覚からとされている。このほかに、におい、音や雰囲気なども、耳、肌、皮膚、鼻などの感覚器官で受容する。これが人間の創造性を生み、多様な生き方、一人一人違う生き方ができることになり、新しい世界を創つくることにつながるのである。

 臨床美術のアートカリキュラムはおよそ400種類ある。認知症の方のみでなく、子どもたちや知的障害、精神障害をもつ方も対象になっている。また、そういう障害などのない方々が同じアートカリキュラムで表現しても、それぞれの作品ができ、個性が表れてくる。

 人間には、いろいろな違いがある。その違いそのものが唯一無二の存在であることを示す価値であり、それによって世の中に尊厳を持って存在することができる。

 「臨床美術学会」の設立に向けて準備が進められてきたが、11月には「臨床美術学会第1回大会」が3日間にわたって東京で開催される。テーマは「臨床美術の未来に向けて~心と身体の感性を覚醒(かくせい)する~」である。

 臨床美術によって、子どもや若者、高齢者との世代間交流の場を持ち、アートを大切にする社会、アートによる共生社会を目指していきたいものである。






(上毛新聞 2009年9月4日掲載)