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ワイン醸造責任者  仁林 欣也(山梨県甲州市)  




【略歴】館林市出身。立正大経済学部卒。地方公務員を4年で退職。山梨でブドウ栽培と醸造を実地で学び、2002年からシャトージュン(株)の醸造責任者として勤務。



ワインの仕込み




◎毎回新たなチャレンジ




 今年もワインの仕込みが始まりました。デラウエアの新酒から始まり、例年は10月半ばの甲州で終わります。今年は山梨県内の少し標高の高いエリアのカベルネソービニヨンを収穫するので、11月半ばまで仕込み作業が続きそうです。この時期がワイナリーも一番活気づく季節です。

 ブドウあってのワイン造りですから、産地勝沼は当然のように街中が活気にあふれています。今にも収穫を待つ畑は、整然と並んだブドウが、見るものを圧倒します。この景観はこの時期しか見ることができません。山梨・勝沼へ訪れることがあれば、ぜひ一度ご覧いただきたいものです。

 弊社はブティックワイナリーもしくはマイクロワイナリーというような非常に小規模なワイナリーです。市内にある中規模ワイナリーの一日分の仕込み量しかないくらいです。年間生産量は25トンから30トン、ワインにして3600ケースほどの少量出荷です。それでもやっぱりこの時期は忙しいのです。すべての作業工程を一人で管理できるので、納得のいくまで仕事ができます。その分うまく行かない時には、何倍ものストレスとなって自分の体にのし掛かってきます。

 ブドウもそれぞれ品種によって、果汁の成分構成が違うので、プレスの仕方から醗酵(はっこう)の進め方、澱(おり)引きのタイミングなど本当に千差万別です。おまけに年によってブドウの品質が違ってくるので、1回として同じ状態のものはありません。毎年、毎回新しいチャレンジなのです。これらの経験が蓄積して、初めて醸造家として一人前になれるのでしょう。これはどんな仕事においても同じことが言えると思います。

 ここ数年、醸造責任者として仕事をしていて、普通のワインを造り続けることの難しさ感じています。同じことをただ繰り返しているだけでは、造ることはできません。常にアンテナを高く伸ばし、最新の技術を吸収し挑戦し続けることで初めてできるのではないでしょうか。

 私の場合、大学などで醸造学を学んだわけではないので、現場で得た知識がすべてです。セミナーや研修会に参加しても話の半分もわからず、とても苦労します。学問的なアプローチをしようとすれば、中学や高校時代のいわゆる「学校の勉強」だけが頼りです。高度ではないけれど、すべての基礎はそこにあり、時間はかかるけど理解できるようになります。そして、次のステップへ進むことができます。

 普通のワインを造るためには努力することが必要です。私はこの仕事を辞めるまで学び、努力することになるでしょう。そうでなければ人に勧めることはできません。






(上毛新聞 2009年9月2日掲載)