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◎草原の劣化を防止? モンゴル国の首都ウランバートルから地方へ調査に向かう時、その道のりの大半が未舗装道路でした。こうした未舗装道路も幹線として地図に記載されていますが、その道路とは草原の上を延びる、地面が露出した轍(わだち)です。 私が調査を行っていた2003年当時、ウランバートルから東部のヘンティー県へ向かう際、舗装されている120キロメートルまではほぼ2時間で到着することができましたが、その先の未舗装の200キロメートルほどの道のりに5時間以上かかっていました。特に未舗装道路ではタイヤがパンクしたり、ぬかるみや雪にはまってしまったりというトラブルに遭遇することは珍しいことではなく、何時までには到着できるだろうという甘い期待は必ずと言ってよいほど裏切られる結果になったものでした。 もっとも、今にして思えばこうした不便な旅の経験は私個人にとって思い出深いものです。その後私がヘンティー県を再訪した07年夏には、ウランバートルと県庁所在地ウンドゥルハーンの間の舗装工事が既に完成しており、ぬかるみにはまることもなく、ほぼ想定した時間に目的地に到着したことにある種の感慨を覚えたものでした。 舗装道路がもたらしたのは便利さだけというわけでもないようです。社会主義時代には交通量が少なく、一条の轍が幹線道路だったそうですが、民主化以降、交通量の増加によってその上を多くの自動車が往来するようになって元の轍の横に新たな轍が枝分かれし、草原の上の轍は折り重なるように増えていきました。やがて幹線道路付近の草原は醜い溝だらけになってしまったのです。道路が舗装されることによってこうした轍が増えることがなくなるのだとすれば、道路の舗装が、利便性や経済効果だけでなく、草原の劣化を食い止めることにつながったと評価することもできるのです。草原に黒いアスファルトの舗装道路が敷かれることに個人的には抵抗を感じないわけではないのですが、それを環境破壊であると断じてしまうことは一面的な極論でしかないと言えるでしょう。 現代において、環境とかかわる問題は極論での解決が望めないものであり、折り合いのつけ方を模索することでしか解決が難しいものかもしれません。日本では衆院議員選挙で、環境問題の観点から高速道路の通行料の引き下げや無料化には慎重であるべきだという意見がありました。これらが有効な折り合いのつけ方の一つなのか、あるいは政治的な意図を含んだ極論なのか、いま一度考えてみる価値はありそうです。 (上毛新聞 2009年9月1日掲載) |