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東京福祉大・大学院教授  栗原 久(前橋市昭和町)  




【略歴】群馬大大学院工学研究科応用化学専攻修士課程修了。同大医学部助手、同助教授、和漢薬研究所を経て現職。専門は薬理学。著書に『カフェインの科学』など。



メタボ対策




◎減量は運動で緩やかに




 昨年4月から、40~74歳の健康保険加入者を対象に、年1回の定期健康診断時に糖尿病対策を行うことを目指した特定検診(メタボ検診)が加えられた。その目的は、生活習慣病の4大症状である肥満、高血圧、高血糖、脂質異常を早い段階で把握して適切な指導を行うことで、中高年齢層の健康増進を図り、医療と介護費用の削減につなげ、さらに労働年齢人口の死亡による生産性損失を防ぐことにある。

 代謝症候群(メタボリックシンドローム、通称メタボ)は、肥満(腹囲が男性85センチメートル以上、女性90センチメートル以上、BMI=体重を身長で2回割った値=が25以上、または内臓脂肪断面積が100平方センチメートル以上)に加えて、血圧、血糖値、血中脂質の3項目中2項目以上が基準値を超える場合と定義されている。最近の調査によれば、成人の約25%が肥満、15~25%が脂質異常、約30%が高血糖、約45%が高血圧の基準を超えているという。

 肥満者に対しては減量が指導されるが、その際、真っ先に挙げられるのが、カロリー摂取量の削減と運動である。成人男性の基礎代謝量は1日当たり約1500キロカロリーであり、運動せずに食事制限でエネルギー摂取量を500キロカロリーに減らしたとすると、約1キログラムの体重減が生じる。1000キロカロリーのエネルギー不足は骨格筋の分解(1グラム当たり1キロカロリー)で補充されるからである。

 効率の良い減量法と思いがちであるが、骨格筋の減少で筋力が著しく低下し、基礎代謝量も減少するので、次第に減量効率が下がってくる。食事制限は失敗しやすく、基礎代謝量が低下した身体では、リバウンドによる肥満が起こりやすい。さらに栄養バランスの悪化により、貧血、内出血や血管破裂、骨粗しょう症、性機能低下やうつ病のリスクが高まってしまう。1月に2キログラム以上の体重減は危険である。妊婦の栄養不良は、胎児の二分脊椎(せきつい)や低体重出産のリスクを高め、肥満児になる可能性が高くなることとも関係している。

 一方、エネルギー摂取量を1500キロカロリーとし、2時間の有酸素運動で1000キロカロリー消費した場合は、脂肪組織(1グラム当たり7キロカロリーのエネルギー源)が選択的に燃焼するので、体重減少は約150グラムである。運動は食事制限より減量効率が悪いように思われるが、メタボのリスクは低下し、筋力も維持されてリバウンドの可能性はほとんどない。

 狩猟採取生活を行っていた数万年前の古代人は1日約10キロメートル歩いていたと推定されており、現代人もこの程度の運動が望まれる。散歩、ジョギング、自転車などの有酸素運動は身体面だけでなく精神面の健康増進にも有効である。






(上毛新聞 2009年8月28日掲載)