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中央大政策文化総合研究所客員研究員  島村 高嘉(東京都国分寺市)  




【略歴】前橋高卒。1955年に一橋大卒後、日本銀行入行。国庫局長、審議役などを務め退職。その後、防衛大学校、中央大で教授、麗澤大で客員教授を経て現職。



ポスト世界不況の行方




◎存在感増す新興国




 サブプライム金融危機の発端から丸2年。リーマン・ショックから数えてもほぼ1年が経過し、さしもの世界不況もどうやら底固めに入ってきたようだ。オバマ大統領も「われわれはいま、景気後退の終わりの始まりを見ているのだろう」と述べている。

 こうした景気復調への鍵を握り、先導役とみなされているのが新興国、なかでもその雄たる中国経済だ。思い切った景気対策の面でも堅調な内需の面でも、その存在感は歴然としている。新興国は先進諸国の景気低迷にもかかわらず、おおむね成長軌道を維持しうる、という「デカップリング新説」を裏付けている。

 翻って今回のサブプライム危機の背景を検証してみても、中国をはじめとする新興国がそこにかかわっていたことは明白だ。なぜなら、(1)米国は貿易収支の大幅赤字と裏腹に基軸通貨のドルを放出し続けてきたが(背後には過剰消費体質)、中国など新興国はその放出ドルの大きな受け皿となってきたこと(巨額な外貨準備の蓄積)、および、(2)この間、米国は、そうした放出ドルの還流とからめて、ハイリスク・ハイリターンのサブプライム関連証券の組成と販売を盛行させ(中国など新興国からすれば余剰ドルのはけ口)、これがバブルの温床となったことは、紛れもない事実だからだ。

 いまや、中国など新興国の存在抜きには、世界経済の動向は読めない。

 ところで、ピータ・タスカ(英国の経済評論家)は、かつて次のように述べていた。巨大なバブルの発生と崩壊には経済覇権国の歴史的交代が深くかかわっていたと。1630年代のチューリップ事件では、スペインからオランダへの交代。1730年代の南海泡沫(ほうまつ)事件ではオランダから英国への交代。1930年代の世界大恐慌では英国から米国への交代と。だとすると、今回の経済危機は果たして米国から中国への覇権交代の兆しとなるものか、どうか。

 無論、軽々には判断できないが、少なくともそこに米国経済の覇権動揺があることは否めないところだ。その影響は、米ドル基軸通貨体制や国際安全保障問題といった側面まで、恐らく広く及ぶのではなかろうか。先般、ワシントンでの「米中戦略経済対話」の報道は、そうした動きの一端を示唆している。

 ともあれ、米中二極時代の到来は、好むと好まざるとにかかわらず、現実味を帯びてきた。ちなみに日本経済センターの予測では、あと10年で米中両国の経済規模は肩を並べるとのことだ。日本経済の今後の進路は、こうした歴史的潮流の激変を十分に踏まえたものでなければならない。






(上毛新聞 2009年8月23日掲載)