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県立ぐんま昆虫の森園長 矢島 稔(東京都台東区)




【略歴】東京都出身。東京学芸大卒。昆虫生態学専攻。1961年、動物園に日本初の昆虫部門創設。87年に多摩動物公園長就任。99年から現職。日本博物館協会棚橋賞受賞。



ホタルの生態系再現




◎環境に見合う個体数を




 夕暮れ時に桐生・新里の里山の道をゆっくり歩く。

 入園者が帰って辺りに人影はなく、時々カイツブリが池の岸に水音を立てているのが、生きものの気配を感じさせる唯一のシグナルだ。

 日没からそろそろ40分を過ぎると、流れに沿って植えてあるヤナギもすべて黒いシルエットになり、風のない昆虫の森のフィールドは静まりかえっている。

 とその時、黄緑色のやわらかい光が目の前に現れ、明滅しながら道の向こうへ飛んでいく。息をのむ美しさにそっと後を追うと、脇の草むらから2つの光が私を導くように現れ、前後しながら目の高さに光の曲線を描きながら先へ先へと進む。

 「昆虫の森」のスタッフはいくつもの課題をつくり、一つ一つ皆さんに喜んで見てもらえる日の来ることを目的に黙々と準備しているが、ホタルを環境の現場で昔ながらに見てもらえるのもテーマの一つであった。

 開園して4年、ついにその日がやってきた。

 流れに放したカワニナ(巻き貝)が増え、羽化する成虫の数も増えて、観賞に値するまでに多くなった。

 ホームページにホタルとその環境を見てもらうイベントを実施する旨のお知らせをすると、参加希望の申し込みが殺到した。

 6月20日の夜、100人の参加者に公開し、続けて26日に、ぜひ見たいという人の要望にこたえてスタッフが誘導したが、なんと1100人もの県民が集まった。

 指にとまったホタルを見つめる子供の目、光が乱れ飛ぶたびに上がる歓声、これがひたすら準備してきたスタッフにとっては何よりもうれしい反応である。この生息環境の中で飛ぶホタルを見てもらう計画案は4年前に完成させたが、これでようやくスタート台に立てたというべきだ。

 なぜなら、ホタルの生態系再現は水質、水中のプランクトンをはじめ、カワニナや他の生きものなど多くの条件のバランスをうまく保つという、容易ではない状態の維持を長く続けなくてはならないからだ。

 最も注意しなければならないことの一つは、ホタルをたくさん出したいという欲望を抑え、生息環境に見合う個体数を保つということである。多く出すことはバランスをくずす原因になりかねないし、その結果、ホタルの姿が激減した場所をいくつも私は知っている。

 初夏の夜、多くの県民に環境の大切さを知ってもらうためのシンボルであるホタルを少しずつ多くしたいと、スタッフは努力を続けている。







(上毛新聞 2009年8月16日掲載)