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◎理解ある家族のもとに その甲斐犬9匹はかわいそうだった。みんなフィラリアにかかっていたのだ。 ブリーダーをしていた男性が飼っていたのだが、この人が病気で倒れて面倒を見ることができなくなったという。 郊外の山の中だったから、普通ならば、そのまま捨てられてしまうか、保健所に連れて行かれる運命にあったはずだった。ところが、この男性の娘さんがやさしい人だった。娘さんは別の町に住んでいたのだが、父親の仕事について必ずしもよいものとは思っていなかったらしい。 「これまで父親が犬たちを使って、お金をもうけていました。ですから、父親が倒れたからって、捨てるなんてできません。なんとか9匹とも新しい飼い主を見つけたいんです。それが、犬たちへの恩返しでしょうね」 保健所を通じて、私たちの協会に連絡があった。私たち協会スタッフが駆けつけてみると、オリの中に5歳から11歳だという甲斐犬9匹がうずくまっていた。 散歩にも出られない暮らしだったから、足のつめが肉に食い込んで、満足に歩ける状態ではなかった。柴犬も3匹いた。こちらは、ガンにおかされていた。 私の知人で、広い敷地の家に住んでいて、犬のもらい手が見つかるまで長期間預かってくれている男性がいる。協会にとってありがたいボランティアである。その人の家にすべて連れて行き、新たな飼い主を探すことにした。「今まで、きっと不幸だったと思うんですよ。だから全部の犬が幸せになってほしいんです。お願いします」 娘さんの真剣なまなざしに、協会としても一生懸命に飼い主を探した。 保護してきた犬たちは散歩をいやがった。当たり前だ、今までしたことがないのだから。食事の仕方も普通ではない。かみ癖のある子もいた。人と暮らす犬として、イロハのイからしつけ直さなくてはならないのである。 それでも、この世の中捨てたものではない。「捨てる神あれば、拾う神もある」ことを痛感した。私たちの呼びかけに対して、1人、また1人と、理解あるもらい手が名乗り出てくれ、ようやく1年がかりで甲斐犬と柴犬すべてが、新たな家族の元にもらわれていった。 その中の何人かは、時おり犬の散歩の途中に、協会に立ち寄ってくれる。幸せに暮らしているのだろう、犬たちの安心しきった表情を見る瞬間が、私たちにとって喜びをかみしめることができる至福の時なのである。 (上毛新聞 2009年8月14日掲載) |