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◎患者の声に耳傾けて 上野の国の六宮は榛名神社です。榛名湖から車で南に10分ほどの所にあります。初めて文献に表れたのが927年です。祭神は火の神・火産霊神(ほむすびのかみ)と土の神・埴山毘売神(はにやまひめのかみ)で、農民により、長らく雨ごいの神として崇敬されてきましたが、もともとは榛名山が死者の霊が帰るところといわれたところから、祖先の霊を祭る神社として建立されたようです。ただ当時の神社がどこにあったかは定かでありません。 神社が榛名川に沿った深山幽谷の中にあることから、その昔、修験者の修行の場であったことを思い起こさせます。神社の本社は御姿岩(みすがたいわ)と呼ばれる巨大な奇岩に取り付けられ、神座は岩の洞窟(どうくつ)の中に祭られています。 創建以来、その名を榛名神社、榛名大権現、満行権現、榛名満行権現、榛名山、榛名山満行院厳殿寺、満行宮、榛名山満行宮と経てきました。明治の神仏分離の時、最初の名である榛名神社に戻り、現在に至っています。この名前の変化は各時代の神と仏が入り混じる様子を表しています。 榛名神社の中心には常に修験者がいました。修験者は山で厳しい修行をし、超自然の験力を会得し、その力を持って人々を加持祈祷(きとう)により救済してきました。人々は病気平癒、家内安全などの願いを修験者に頼み、実現しようとしてきたのです。昔は病におかされると、まず自分の自浄能力で治療し、それでもだめなら神の力を借りて治すという考えがありました。 ところが現代は身体に変調をきたすとすぐに病院です。かつてのようにかかりつけの医者が患者を一目診て、患者の病状と医者としての経験から異状を発見し、治療を施すという時代ではありません。病気の原因を探すために検査の連続です。検査数値に異常が現れない限り、原因は解明できないのです。そして医者は病を持つ人ではなく、身体の悪い個所を治すことに専念します。もうすぐ寿命が尽きるであろう人にも治療です。この結果、多くの人は管(くだ)詰めで、長期間、意識のないままベッドに横たわり、死を迎えています。心の痛む光景です。人は昔ながらに、畳の上で死ぬことを願っているのではないでしょうか。 日本人の平均寿命は世界一です。これは日本の医療技術が優れていることを示しているだけで、人間の尊厳死の重視という観点からすれば決して誇れるものではありません。医療関係者、そして周りのわれわれも苦しみの中から発する患者の声にもっと真剣に耳を傾け、治療・看護のあり方を考え直しても良いのではないでしょうか。 (上毛新聞 2009年8月13日掲載) |