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落語家 三遊亭 竜楽(東京都墨田区)




【略歴】前橋市出身。中央大法学部卒。1986年、三遊亭円楽に入門。92年、真打ち昇進。中央大で学員講師。日本放送作家協会員。ワザオギレーベルよりCD「三遊亭竜楽1」が好評発売中。



“言い換え”の効用



◎自然に盛り上がる会話




 「番頭さん今日は暑いねー」

 「暑うございますなー」

 「うだるようですよ」

 「うだるようですなー」

 「仕事する気しませんよ」

 「仕事する気いたしませんな」

 「暑いねー」

 「暑うございますなー」

 「…暑苦しいから向こうへ行っとくれ」

 「夕立屋」という小噺(ばなし)の一節。相手のセリフを何もかもオウム返しにして退屈させるくだりだ。笑いをとるための極端なやりとりだが、似たようなケースは日常でもお目にかかれる。エレベーターに乗り合わせたマンションの住人が――。

 「おはようございます」

 「おはようございます」

 「…………」

 「暑いですねえ」

 「暑いですねえ」

 「…………」

 その後が続かない。静寂が訪れ、無言で別れてゆく。出会った時以上に盛り下がった雰囲気で…。

 噺の達者な人は一歩進めてセリフを返す。

 「今日も猛暑日だそうですよ」

 「ちょいとひと雨欲しいところですね」

 会話が発展することで親近感が生まれ、付き合いも深くなる。

 すんなり言葉が出ない方には“言い換え”というテクニックがお勧め。

「暑い」と言われたら「蒸しますねえ」と答え「寒い」なら「冷え込みますねえ」と返す。言葉の変化があるため、その後の間がさほど気にならない。

 “言い換え”は長い会話になるほど効力を発揮する。

 「夕べ飲み過ぎちゃってね」

 「顔が青いですよ」

 「頭も痛くて」

 「二日酔いはつらいですよね。遅かったんですか?」

 「看板までねばっちゃってね」

 「へえー。暖簾(のれん)おろすまで」

 「そうなんだよ」

 だんだん相手が話にのってくる。自然に盛り上がるのは、言い換えることで“こいつは俺(おれ)の話を聞いてくれてる”という実感を相手が持つからだ。

 “言い換え”を身につけるには普段から同じ言葉が続かないように意識すればよい。おのずとストックが増え、急な注文に対応できるようになる。

 とにかく同様の表現は避けて通ること。言い方に変化をもたせ重複を回避する。重ならないように気をつけて発言することが肝要だ。ぜひ注意していただきたい。

 大切なことを忘れていた。最も退屈なのは同じ内容のくり返しである。






(上毛新聞 2009年8月9日掲載)