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◎再犯防止にも有用 刑事事件の法廷を最初に傍聴したのは学生のころであったが、被告人が裁判官に向かってしきりに謝罪をしていたのが印象的であった。実務についてから、被告人の反省態度を示すため法廷で謝罪の言葉を述べさせたが、それは法壇に向かってのものであり、そこに肝心の被害者はおらず、これで謝罪になるのかという違和感がつきまとった。 最近でこそ、被害者に裁判日程の通知がなされたり、少年審判傍聴や被害者参加が採用され、制度的に被害者が少年審判や刑事裁判にアクセスし、加害者から謝罪の言葉や反省の弁を聞く機会が得られるようになったが、被害者の出席はむしろ少数であり、被害者不在の法廷で上記のような風景は相変わらず続いているのである。 ただ、被害者に対しては、加害者の弁護士は示談を取ろうと努力し、その過程で被害者に謝罪を行うなどしている。しかし、そうではないケースもあるし、ことに少年事件では、重罪以外には付添人がつかないケースが多く、そうなると示談も謝罪も試みられない場合も多いと思われる。この点、警察庁が2002年に実施した犯罪被害実態調査を見ると、被害後に加害者から謝罪があったのは約19%にとどまり、8割以上の被害者は謝罪がなかったとされているのである。 被害体験は被害者や遺族に心的外傷を与え、その感情や認知にゆがみを与える場合がある。それが持続すると、何も感じない、何も考えないという方法で回避したり、あるいは、悪いのは犯人であるのに、被害に遭った自分の行動を責めたり、自分は被害に遭っても仕方のない人間だと自尊感情を低下させたり、社会は守ってくれないという不信感を強めたりする。 こうした不健全な状態を改善し、被害者本来の姿に回復させるのには、加害者からの謝罪が有用とされ、最近では加害者の謝罪や償いを積極的に実現させるため、訓練された仲介者を介して被害者と加害者を同一の場所で対話をさせる運動が提唱され、わが国でも少年事件を対象に一部の民間機関によって実施されている。 ただ、被害者や被害は一様ではなく、年数を経ても被害感情が風化しない場合も多く、そうした被害者が加害者と対面するのは困難であるし、むしろ害になる場合もあるので慎重を期さなければならないが、この運動には、加害者が、被害者の方を見て反省をし、自己の責任を心から引き受けて謝罪を行うことの意義を再認識させるし、こうした謝罪であれば、加害者の再犯防止にも有用といえる。被害者に対する謝罪は、加害者の司法手続きや矯正教育においてさらに意識されるべき事柄である。 (上毛新聞 2009年8月6日掲載) |