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NPO法人国際比較文化研究所所長  太田 敬雄(安中市鷺宮)




【略歴】米国の神学校で宗教学修士号を取得。弘前大、新島女子短大などでの教職を経て、9年前にNPO法人国際比較文化研究所を設立、同所長となる。



多文化交流プログラム



◎相互理解で平和実現を




 2000年に国際比較文化研究所をNPO法人として立ち上げたとき、「相互理解に基づいた、より豊かで平和な地球を創(つく)るために」をモットーとした。

 お題目として「平和」を掲げても世の中は変わらない。「平和」を大声で叫んでも平和は実現しない。過去の戦争を見ると、敵対する双方が平和を掲げ、正義を主張してきたのだ。

 異なる正義感、価値観、生活様式を持つ多くの文化が存在する中で平和を実現するには、まず「相互理解」からスタートするしかない。

 相互理解は相互信頼を生み、そこに初めて「平和」のために違いを超えて協働する地球社会が生まれる。その出発点となるべき相互理解は、人と人の心の交流があって可能となる。

 そんな心の交流を求めて、国際比較文化研究所では「多文化交流」と銘打ったプログラムを実施してきた。今年は8月の半ばに8日間ほどインドネシアのジャワ島にあるマランに行く。

 「多文化交流」は、世界の国々、特にアジアで日本にあこがれ、日本語を勉強している若者と日本語で交流するプログラムである。日本語を学ぶ若者たちにとってそれは貴重な学びの場でもある。しかもこの若者たちは将来間違いなく日本との懸け橋となるのだ。

 日本からの参加者たちは、イスラムの世界に生きる学生たちと交流し、その生活の場を体験してくる。通常の「短期留学」や「観光旅行」では得られない貴重な体験である。

 この交流のもう一つの特徴は、マラン側と日本側が協力して一つのプログラムを作ることにある。当たり前のようだが、実は日本が実施するプログラムの多くは日本側のメリットしか考えていないケースが多い。それでは対等な交流は生まれない。なぜならそこでは「相互理解」など意識もされていないからだ。

 今年で3回目になるマランでの交流。ほんの1週間の交流が一生続く交流へとつながるよう準備を進めている。その先に平和な地球社会が確実に見えてくる。

 しかし、「国際的な」交流を体験できるようになるには、幼いころから豊かな交流体験の中で育つことも大事である。

 一つの社会の中にも違いはある。お互いの違いを知り、理解し合い、信頼しあう関係を育てる経験なしには、国際的な相互理解など構築できるわけがない。

 今日までの日本で私たちはそのようなことを念頭に置いた教育をしてきたろうか。温室のような環境の中で、ひたすら知力を高めるだけの教育では、違いを超えて協働する世代は育たない。

 相互信頼をはぐくみ、平和を実現させる世代を育てなくてはならない。







(上毛新聞 2009年7月18日掲載)