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かみつけ民話の会「紙風船」会長  結城 裕子(高崎市金古町)




【略歴】新潟県出身。桜美林大卒。祖母から昔話を聞いて育った口承の語り部。現在、かみつけ民話の会「紙風船」会長として語りとともに、読み聞かせ活動も行っている。


同じ志を持つ仲間



◎自分たちの語り探して




 私が人前で昔話を語るようになって20年がたとうとしている。初めはひとりで活動していたが、7年前、群馬図書館の読み聞かせで出会った2人の女性と語りの仲間になり、翌年、かみつけ民話の会「紙風船」を結成した。

 この会の趣旨は民話を伝えることであるが、その方法は各自の自由である。しかし、やはり語りが中心だ。結成当時、私と会員たちはこの語りの勉強法で苦労した。私にとって語りとは、文字を介さない口承が当然である。だから当初、たいていの人が話を覚える時、文章を暗記することに気づかなかった。そして、会員の語りの勉強をどう手助けしていいか分からず戸惑ったのである。会員はそんな私と根気強く付き合ってくれた。本当にありがたかった。

 今は三つのことに重点を置いて勉強している。一つ目は、自然に声を出すこと。今の発声がその人の人生で培われた声なのだから発声練習はしない。二つ目は、語る時頭の中に文章ではなく映像を描くこと。三つ目は、地元や出身地などの身近な話を選ぶこと。この三つを守れば、より口承に近い語りができるのではないだろうか。

 私は会員の語りを聞くのが好きだ。年配者のこくのある語りや若者のさわやかな語り、快活な語りや穏やかな語り等、会員の数だけ語りがある。そんな語りの中にいると、つらい時でも心が癒やされていくようだ。「紙風船」はそんな会である。

 私はまた時折、富岡の「語り部かぶらの里」に出かける。「絵本で読み聞かせをする人も劇をする人もいます。紙芝居もあります。でも私たちは富岡製糸場の話を語り伝えたいのです」。会長さんのこの熱い言葉に心動かされたのである。語りは人生と思いを言霊にして話すことだから、昔話だけとは限らないと思う。戦時中の体験を語るというようにさまざまな語りがある。会員さんたちには自らが誇る富岡製糸場の話を存分に語ってほしいと願う。

 今は丹念に語りたい事柄を資料から拾い上げている段階だが、既存の資料を暗誦(あんしょう)するのに比べ、大変な作業だと思う。それでも会長さんの言葉どおり、会員さんたちの瞳はいつも自らの語りを探して生き生きと輝いて見える。

 この二つの会のほかにも、失われつつある日本の話を熱心に拾い集め、それぞれの方法で伝えようとしている人たちを私はたくさん知っている。その人たちと語りあう時間は私にとってとても大切なものである。それにしても、人は日常身近にある物の大切さを失いかけて初めて気づくのだろうか。私は昔話を語る時、この話もその一つかもしれないと、襟を正すことがある。そんな時、同じ志を持つたくさんの仲間たちに「がんばりましょう」と心の中でエールを送るのである。





(上毛新聞 2009年7月16日掲載)