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中央大政策文化総合研究所客員研究員  島村 高嘉(東京都国分寺市)




【略歴】前橋高卒。1955年に一橋大卒後、日本銀行入行。国庫局長、審議役などを務め退職。その後、防衛大学校、中央大で教授、麗澤大で客員教授を経て現職。



不況脱出のかじ取り




◎重要な「出口戦略」





 世界中にたちこめていた大不況の暗雲も、このところ薄れてきて、小康状態と報ぜられている。大盤振る舞いの財政出動と非伝統的な分野まで踏み込んだ金融政策の影響もあって、主要国の株価は持ち直し、極端な悲観論も後退したようだ。だが、これからの不況脱出は、さまざまの不安材料もあって、一筋縄にはいかないだろう。

 くすぶる将来不安。それとの絡みで早くも話題となってきたのが、不況脱出をにらんだ主要国での「出口戦略」(危機対応のギア・チェンジ)を探る動きだ。何しろ、類を見ない国債の大増発と流動性の大量供給である(IMFによると主要国の財政投入計はおよそ5兆ドル、各国ともゼロ金利の近傍)。出口戦略のかじ取りを誤れば、大きな副作用(早すぎれば不況増幅、遅すぎればインフレ胚胎(はいたい))を伴う。先般のG8財務大臣会議でも、正式にアジェンダとして取りあげられた。私は、これを評価し、その帰趨(きすう)に関心を寄せている。

 この出口戦略とのかかわりで見逃せないのが、昨今の先進国での長期金利のジリ高傾向だ。なぜなら、金融超緩和の下でのジリ高であるだけに、財政規律に対する市場の懸念や、それと裏腹のインフレ不安などもうかがわれるからである。現に、投機マネーは、再び原油価格や国際商品市況の復活となって頭をもたげてきている。ちなみに、今次危機を予告していた、あの前FRB議長、グリーン・スパン氏も「信用収縮で、世界経済はしばらくは減速しようが、やがてインフレが戻ってくる」と警告している(「波乱の時代」特別版)。あしきスタグフレーション(デフレ下のインフレ)は何としても避けねばならない。波乱が次なる波乱を呼んではならない。

 職業的心配屋ならずとも心配なのは、微妙なこれからのかじ取りだ。政策当局は、出口のタイミングを外さないかどうか。なかんずく中央銀行は毅然(きぜん)たる政策スタンスを貫けるかどうか。米国について言えば、FRBは独立性重視の長い伝統を持つ(かつて1951年、財務省との間で、国債価格支持政策に拘束されずとのアコードを締結)とはいえ、今般もオバマ政権の確固たる擁護を得られるかどうか。今次危機発生国でもあり、基軸通貨国でもあるだけに、世界に対する責任は一際重い。

 一方、わが国ではどうか。財政事情は先進国ではずば抜けて悪い。その上での今回の財政大出動。財政規律の軽重が問われている。日銀は、出口にさしかかった正念場で、果たして「憎まれ役」の中央銀行の真価を発揮しうるかどうか。われわれ国民は、目先にとらわれることなく、中長期までにらんだ出口戦略の行方にも注目していかねばなるまい。






(上毛新聞 2009年7月1日掲載)