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県立女子大非常勤講師  小畑 紘一(東京都北区)




【略歴】東京都生まれ。疎開で前橋市へ。前橋高、慶応大経済学部卒。外務省に入省しウズベキスタン大使、ヨルダン大使など歴任、2006年3月退職。06年10月から現職。



地球環境の悪化



◎自然への傲慢さ反省を





 上野(こうずけ)の国の四宮は甲波宿禰(かわすくね)神社です。社は、吾妻川の南側を走る県道渋川吾妻線が上越新幹線と交差する渋川市川島の高台に鎮座しています。主たる祭神は速秋津彦命(はやあきつひこのみこと)と速秋津姫命で、社伝によれば、創建は宝亀2(771)年とのことです。

 「甲波」は川であり、「宿禰」は尊い人につける尊称です。川は、近くを流れる吾妻川を指し、これを神としてあがめ親しみを込め、現代風に言えば「御川(みかわ)様神社」とでも呼んだのではないでしょうか。ただ、いずれの川も神になれるわけではなく、良きにつけあしきにつけ川が人間界に想像を絶する影響を及ぼし、人がそれに恐れを抱いて初めて神とみなされるのです。吾妻川が神としてあがめられたのは、この川が尋常でない暴れ方をする川であったためです。そこで昔の人は、流れを鎮めるために川の流れが安らかであることをつかさどる前述の2柱を祭神として甲波宿禰神社を建立したのです。しかも、1つの社だけではなく、同様な名の社をもう2つ、川沿いに建立したのです。それほどに吾妻川の氾濫(はんらん)は怖れられたのです。

 しかし、神様をもってしても、自然の猛威を防ぐことはできませんでした。それは、天明3(1783)年に起こった浅間山の大爆発による吾妻川の大氾濫が物語っています。当時社殿は、現在よりもっと川の近くにありました。鉄砲水は浅間山の岩をあっという間に約70キロ下流の川島村まで押し運び(付近の県天然記念物「金島の浅間石」がこれです)、村を2メートルもの土砂に埋め、家屋168軒中127軒を流失させ、男女113人を流死させ、さらに濁流は神社のご神体を約130キロ下流の千葉県市川市真間まで押し流したのです。

 われわれは昔から自然の猛威を防ぐために数々の工夫を凝らしてきましたが、一度荒れ狂った自然の前ではなす術がありません。例えば大地震などの場合です。ここでもう一度われわれの命は自然の手中にあるということを認識しておく必要があるのではないでしょうか。人類はこれまで、生活の便利さ・快適さを求め例えば自動車や冷暖房器等の利用により自然に過剰な負担をかけてきました。こんな人間の傲慢(ごうまん)さに対する自然のしっぺ返しが異常気象や地球の温暖化等です。

 地球環境は急速に悪化しています。にもかかわらず、まだ多くの国が経済発展を優先させ環境規制には消極的です。これは地球の寿命を縮める自殺行為です。地球をあるべき姿に戻すには既に手遅れかもしれません。しかしわれわれには自分自身の快適な生活確保のためにもこれ以上の環境破壊は許されません。いまこそ欲望・利益追求の生活スタイルを根本から変革させる必要に迫られているのではないでしょうか。






(上毛新聞 2009年6月23日掲載)