視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
|
|
◎豊富なジャンル認知を 誰かと知り合うときにまず質問されるのが「どうしてブラジルへ行ったの?」である。そのたびに理由を説明しているわけだから、このレスポンスに関しては女優が最後の台詞(せりふ)を言うように劇的に、そしてほぼ完ぺきに答えられなければならないはずである。しかしこれがなんとも苦手である。 ブラジル音楽といえば「サンバ」と答える方がほとんどだと思うが、みなさんはボサノヴァという音楽をご存じだろうか。現在、日本中のカフェテリアやショップではボサノヴァが流れている。私の通うヘアサロンでもボサノヴァが流れていたので、担当の方に「ブラジル音楽っていいですよね」と話したら「コレってブラジル音楽?」と返されたことがある。日本中でボサノヴァがはやっているのに、その音楽を流す本人たちにブラジルの素晴らしさが伝わっていないのかと思うと残念でならない。 渡伯して一番驚いたのがその音楽ジャンルの豊富さである。パゴーヂ、MPB、アシェー、フレーヴォ、ファンキ・カリオカなど、書ききれないほどのジャンルが存在する。 「アメリカ音楽って何?」と聞かれて即答できる人はいるだろうか。アメリカ音楽に代表されるブルースやジャズ、ロックは全く異なる音楽ではないだろうか。それはブラジルも同じで、存在するさまざまなジャンルは使用する楽器もリズムも全く別物である。 私がリオ・デ・ジャネイロ州へ留学したのも、そこがボサノヴァ発祥の地だからである。ボサノヴァだからリオ・デ・ジャネイロ州、アシェーならバイーア州、フレーヴォならペルナンブーコ州など音楽ジャンルによってその音楽を求める地域も異なるのだ。 大泉町はサンパウロの郊外やパラ州から出稼ぎに来ている日系ブラジル人が多いので、彼らが経営しているバーやクラブで流れているのはセルタネージョやフォホー、ブレーガといったジャンルである。渡伯経験のないブラジル好きの日本人にはまだ浸透していないので、「サンバはかからないの?」とションボリされる。しかしこれは仕方がなく、私も大泉町で暮らすまで一度もブレーガを聴いたことがなかったのだ。 「私はボサノヴァやMPBが好きでブラジルへ行きました」などとブラジル音楽を知らない人に言っても伝わらないのはわかっている。しかし、「ブラジル音楽が好きだから」だけではどうしても足りない。ブラジル音楽への尊敬と愛情によって自らの発言を素直に受け止められず、それが自分がいまだに「ブラジルへ行った理由」を上手に話せない理由である。まだまだブラジル音楽は認知されていないが、いつかは「音楽大国ブラジル」というすてきな事実が日本に浸透する日がくればいいなと願う。 (上毛新聞 2009年6月21日掲載) |